03-3342-6111(代表)

口唇口蓋裂センター

歯科口腔外科・矯正歯科

近津 大地

センター長
歯科口腔外科・矯正歯科 科長

近津 大地

哺乳床(ホッツ床、NAM)

出産後に口唇口蓋裂の両親が直面する最初の課題は哺乳です。口腔内に裂隙があると、飲める乳の量が少なく、必要な哺乳量を摂取できないことがあります。哺乳床で裂隙のある口蓋部を覆うことにより、吸啜・乳首の圧迫の効果を増大させることができます。また、口唇・口蓋裂の形成手術前の顎矯正や鼻矯正の効果もあります。哺乳床は成長に応じて、たびたび調整が必要となってくるため、定期的な受診が必要です。

口蓋形成術(硬口蓋閉鎖)

口蓋形成術の目的は、口蓋における口腔と鼻腔を遮断するだけでなく、軟口蓋の口蓋帆挙筋など左右に分かれた筋を再建して、正常な鼻咽腔閉鎖機能を獲得することです。硬軟口蓋裂では、裂隙が軟口蓋から硬口蓋(上顎で骨の裏打ちのある部分)にまで及んでいる場合、症例に応じて当院では二段階法(一回目の手術で軟口蓋を閉鎖し、数年後の二回目の手術で硬口蓋を閉鎖する方法)を行っております。早期に硬口蓋までを閉鎖すると顎発育の障害をきたすからです。通常4.5?5歳頃に硬口蓋の閉鎖を行います。

歯科矯正治療

口唇口蓋裂の患者さんのほとんどが歯科矯正治療を必要としています。その理由は、歯の数が足りなかったり大きさが不十分だったりすること、上顎の一部の骨が不足していること(顎裂)、過去に受けた手術の影響で上顎の成長が不十分であること、などがあるからです。また、歯科矯正治療には、出生直後に行う上顎の骨の位置の矯正、幼児期から学童期の体の成長期に合わせて行う上下顎の骨の大きさの矯正、成長終了期及び永久歯列完成期に行う歯一本一本をきれいに並べる歯列矯正と多岐にわたります。そのため、まず出生直後から診察させていただき、口唇形成術後は1年に1回、定期的に診察させて頂きます。5歳児頃にはレントゲンなど検査を行い、今後の矯正治療の必要性やその時期の予測を立て、程度に応じて歯科矯正治療を開始します。顎裂がある場合には後継永久歯の萌出や移動を目的として適切な時期に顎裂部骨移植術を行います。

顎裂部骨移植術

顎裂があると後継永久歯の萌出、移動ができないため、不正咬合になります。通常、犬歯萌出前の8?10歳頃に手術することを目安にしていますが、移植に必要な骨量と採骨できる量の関係から、体格、裂型、広さ、永久歯の萌出状態、歯科矯正治療の進み具合をもとに患者さんごとに手術時期を検討します。両側に顎裂がある場合、採取できる移植骨量や移植した骨を覆う粘膜骨膜弁の血行を考えて、片側ずつ行う場合もあります。移植骨は通常、腸骨海綿骨を用いています。

三次元CTとパノラマエックス線写真、矢印は左側顎裂部を示している。
a:切開線の設定、b:移植床を形成し、腸骨海綿骨を移植する。

※口唇口蓋裂のチーム医療(金原出版)より引用

顎矯正手術

患者さんは、上顎の低形成に伴う反対咬合を呈する場合が多く、このうち歯科矯正治療のみでは改善し得ないような著しい上顎後退症を示す場合には、Le Fort I型骨切り術による上顎骨前方移動を行います。しかし、口蓋の術後瘢痕が強い場合には、一期的なLe Fort I型骨切り術では予定した位置まで移動することができないか、術後に後戻りを生じることもあります。上顎の前方移動量が大きい場合には、骨延長法という手法を用いて上顎の前方移動を行っています。また、下顎の過成長が認められる場合では、下顎骨後方移動術を同時に行います。実際には、上顎骨前方移動術と下顎骨後方移動術を同時に行う場合が多いです。これらの顎矯正手術は、顎骨の成長が終了する16?18歳以降に行います。

上顎骨切り術(Le Fort I型骨切り術)
下顎枝矢状分割術

※高橋庄次郎、他編:顎変形症治療アトラス(医歯薬出版)より引用・改変

形成外科

松村 一

副センター長
形成外科 科長

松村 一

形成外科では、口唇口蓋裂患者さんに対して口唇裂形成術、口蓋裂形成手術(軟口蓋閉鎖)、各種の形成術を行います。

口唇裂形成術

通常生後3ヶ月ごろに、口唇(くちびる)に割れ目がある場合には、割れ目の閉鎖のために唇裂形成術行います。このため、生後なるべく早くに形成外科を受診していただき、手術日や全身麻酔の準備をいたします。口唇に離開の幅が大きい時には手術前に口唇皮膚にテープ等を貼って、左右の口唇を近づけておくことを行うことが有ります。この場合、皮膚のかぶれには十分注意します。

手術では唇の筋肉の縫合を行いますので、手術後に縫合した筋肉にあまり力がかからないように、しばらくの間は、乳首を吸啜してもらうのではなくスポイトで哺乳します。このため、手術前からスポイトでの哺乳を練習してもらいます。

初回の口唇裂形成術時には、鼻の変形に対しては侵襲の少ない方法でのみ修正をします。侵襲の強い術式で修正しますと後の鼻の発育が悪くなることがあり、最終的な形態の修正が難しくなることがあるからです。

イラストは完全唇裂口蓋裂(かんぜんしんれつこうがいれつ)の手術前の状態です。口唇に完全な裂があるとともに口蓋の全てに間隙があり、鼻腔内が見えている状態です。この状態では外観だけでなく、哺乳にも大きな問題が有ります。

写真は生後3か月で唇裂手術を行った男児(右)と女児(左)の患者さんの術後1~2年の状態です。口唇の状態は非常に綺麗で、外観上の問題はありません。今後は、鼻翼形態の修正を計画します。

口蓋裂形成手術(軟口蓋閉鎖)

そして、生後1歳から1歳半ごろに、言語の獲得に適した良好な機能を獲得する目的で口蓋(口の中の天井部分)に割れ目がある場合には、口蓋に付着する筋肉の走行の修正と閉鎖術を行います。これにより、構音に必要な筋肉が再建され、術後には言語のリハビリテーションを行います。口蓋の前方の骨の部分に裂がある場合には、口腔外科にて装具を装着して裂を閉鎖しておきます。これは、あまり早い時期に口蓋の骨に手術侵襲を与えると上顎の骨の成長を妨げることがあり、歯並びが悪くなったり、顔貌にも影響があるためです。この部分の裂は後に歯科口腔外科にて閉鎖を行います。

各種の形成術

この2つの基本的な手術の後に、成長にあわせた適切な時期で各種の修正術を行っていきます。口唇の傷あとなどの修正、鼻翼・鼻孔の左右差や鼻柱の短縮に対する修正(変形外鼻手術)、上顎骨下顎骨のアンバランスを改善する顔面骨の矯正骨切り術などがあります。これらの手術は、成長過程で早過ぎる時期に行うと正常な組織の発育を妨げる場合もありますので、十分に時期を検討しながら行っていきます。例えば、鼻の形態の修正は鼻軟骨の位置を正常に戻すことで行いますが、あまり早い時期に行うと鼻の軟骨の成長を妨げる事がありますので、あまり早い時期での修正をする手術の回数が多くなるだけでなく、最終的な結果にも影響を及ぼします。

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

塚原 清彰

副センター長
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 科長

塚原 清彰

耳鼻咽喉科・頭頸部外科が口蓋裂の診療に介入するポイントは2点あります。滲出性中耳炎による難聴と、言語機能評価です。
滲出性中耳炎は小児に多い疾患で、鼓膜の内側(中耳)に液体がたまり難聴を引き起こすことがあります。口蓋裂の患児では耳管(中耳と鼻腔を連絡する管)の働きが悪い場合が多く、滲出性中耳炎にかかりやすいとされています。言語習得の時期に難聴があれば言語発達に影響が出る可能性があります。構音障害に対しては、鼻咽腔閉鎖機能の獲得を目指し、口蓋形成術やその後の構音訓練をすることになりますが、その前段階で言語発達を促進させておくことは大切なことです。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、鼓膜の視診と可能であればティンパノメトリを施行し滲出性中耳炎の有無をチェックします。また、言語聴覚士による言語機能評価を行います。

小児科・思春期科

山中 岳

副センター長
小児科・思春期科 科長

山中 岳

口唇口蓋裂は、頭蓋顎顔面領域の先天異常の中で最も頻度の高いものであり、わが国では約0.2%にみられます。原因はわかっていませんが、一般的に多数の遺伝要因と環境要因の相互作用によっておこるとされています。このため、他の心疾患など全身的疾患を合併していることがあり、精査が必要です。また、出生直後から成人に至るまで各ライフステージに解決すべき諸問題があります。これには生下時からの哺乳栄養指導に始まり、歯の管理、中耳炎へのケア、発声補助、口唇形成などなど多くのケアが肝心となります。小児科は全身疾患の精査を行うだけでなく、心理ケア、遺伝相談、ワクチンを含め全人的に子どもの発育を見守っています。この間、随時形成外科、口腔外科、耳鼻咽喉科、言語治療を適切な時期に適切な対応の橋渡しを小児科がいたします。特に、出生直後は大事な時期で、産科へのお迎えも行っておりますので、ご相談ください。

また、遺伝子診療センターでは、口蓋裂・口唇裂に関しての遺伝的なご相談も受けており直接遺伝子診療センターのご連絡ください

産科・婦人科

西 洋孝

副センター長
産科・婦人科 科長

西 洋孝

近年の超音波診断法の進歩により、胎児期の口唇口蓋裂の診断が可能となっております。しかし、口唇口蓋裂が発症したとしても妊娠中の胎児発育に影響することはなく、分娩に関しても通常通りで問題はありません。出産までは特に治療の必要はありませんが、出生後は哺乳障害などその重症度により状況が異なりますので、それぞれお子さんに合った個別の対応が必要となります。当センターでは各領域の専門医による総合的ケアを受けることが可能であり、胎児期に口唇口蓋裂と診断されたお子さんに関しては、妊娠中より小児科をはじめ関連診療科と密な連携をとり出生後の対策について検討させていただきます。

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