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漢方医学センター

コラムなど

胃の不調と漢方治療(2022年10月)

東京医科大学病院漢方医学センター 及川哲郎

 胃もたれや胃痛は日常的にありふれた症状ですが、患者さんの生活の質を落とすので効果的な治療が求められます。必要に応じ胃内視鏡でがんや潰瘍などのチェックをする必要がありますが、検査で異常がなければ多くの場合機能性ディスペプシア(FD)と診断され、漢方治療が有効な場合が少なくありません。それはFDの病態が複雑で、複数の生薬成分を含み多くの作用点を持つ漢方薬が有用と考えられるからです。

 実際、昨年日本消化器病学会が発表したFDの診療ガイドライン(診療指針)では、消化器疾患の漢方治療に頻用される六君子湯りっくんしとうが初期治療薬のひとつとして推奨されています。胃の運動や排出機能などを改善することが確かめられており、臨床試験データも豊富で現代医薬と同等の扱いになったことは画期的です。六君子湯は胃もたれや食欲不振に効果があり、漢方医学的には気虚と水滞を治します。腹診所見として胃のあたりを指頭で軽くゆすったり軽く叩くとチャポチャポと音がする「胃内停水」があり、文字どおり胃内に水が停滞することをいいます。

 ところで胃の運動機能には、食べ物が入ると胃の筋肉が緩み大きく膨らみ、食べ物をたくさん受け入れる適応性弛緩という機能があります。この機能が障害されると、胃が膨らまなくなりすぐお腹が一杯になってしまいます。私たちは適応性弛緩のおかげでおいしいものをたくさん食べることができるのですが、六君子湯はこの適応性弛緩機能を改善させることが証明されています。また六君子湯の食欲増進効果は、食欲増進を主るホルモンの一種グレリンを介するとされています。ラットを用いた実験では六君子湯投与後に餌を食べる量が増加し、それに伴って血中グレリン濃度が回復したと報告されています。このグレリンを増やす優れた作用も、実は現代医薬にはない六君子湯ならではのものです。近年の研究では、8種類から成る六君子湯の構成生薬ごとにグレリン分泌促進、グレリンシグナル増強、グレリン分解抑制など異なったグレリン増強作用があることも見出されています。数百年以上前に経験的に作られた漢方薬が、現代医学的な観点から振り返って見ても非常に合理的な生薬の組み合わせとなっていることに驚かされます。

 今回は研究データの多い六君子湯のお話が中心になりましたが、六君子湯以外にもFDによく用いられる漢方薬として黄連湯おうれんとう黄連解毒湯おうれんげどくとう半夏瀉心湯はんげしゃしんとう(実証向けで消炎作用や制酸作用が期待できます)、安中散あんちゅうさん人参湯にんじんとう(虚証向けで消化管を温めその機能を回復させる)など様々な漢方薬があります。胃の不調にお試しください。

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