循環器内科
心アミロイドーシス専門外来

概要
■心アミロイドーシスとは何ですか?
アミロイドは、体内で生成されるタンパク質の不溶性凝集体から発生します。
心アミロイドーシスは、「アミロイド」と呼ばれる異常なタンパク質が心筋に蓄積することで生じる一連の疾患です。
アミロイドは徐々に心筋内に沈着し、その機能を低下させ、うっ血性心不全を引き起こします。アミロイドーシスは全身性疾患であることが多く、異常なタンパク質沈着はさまざまな臓器や組織に見られます。その結果、腎不全、神経障害、胃腸障害、肺機能障害など多彩な臨床症状を引き起こします。

心アミロイドーシスの主な原因として、血液疾患における軽鎖アミロイドーシスが心筋に沈着するAL型心アミロイドーシスと、肝臓で生成された甲状腺ホルモンの輸送タンパク質であるトランスサイレチンが心筋に沈着するトランスサイレチン型心アミロイドーシス(以下、ATTR心アミロイドーシスと略します)です。
局所的に組織に浸潤し、手根管症候群や脊柱管狭窄症などの病状を引き起こすことがあります。そのような初期段階では非特異的な症状や徴候のために早期診断ができないことが多く、病気がかなり進行した段階で初めて診断されることも多いのが現状です。

■ATTR心アミロイドーシスの形態は遺伝性と野生型の2種類があります。
1)遺伝性ATTR心アミロイドーシス
- これは人の遺伝子の変化によって引き起こされ、親から子へと受け継がれます。
- さまざまな形でご家族に影響を与える可能性があります。
- 遺伝子検査によって診断されます。

2)野生型ATTR心アミロイドーシス
- このタイプは年齢を重ねるにつれて原因不明で発症します。
- 遺伝性 ATTR-CM よりも一般的で、65 歳以上の人に最も多く発症します。
ATTR心アミロイドーシスは長い間、極めてまれな予後不良の難治性心疾患とみなされていましたが、最近の研究では、加齢に伴う野生型による形態の頻度が以前の想定よりも大幅に高いことが示されています。
近年画像診断の進歩や疾患修飾治療の開発により、早期発見が可能となり、病的なATTRアミロイドの新たな生成を止め、疾患を凍結させる治療が可能になってまいりました。適切な診断や治療が行われない場合、心アミロイドーシスは進行性心不全、さらには死に至ります。心アミロイドーシスの予後は原因と症状の発現時期に大きく依存するため、迅速かつ正確な診断と適切な治療が非常に重要です。
当院の心アミロイドーシス専門外来の目標は、心アミロイドーシスの早期診断と適切な治療を含めた包括的管理を提供することです。
当院には、心不全、画像診断、血液内科、神経内科、腎臓内科そして遺伝を専門とする経験豊富な医師がおり、互いに協力する体制をとっております。豊富な経験と最新のエビデンスから、アミロイドーシスと診断された患者さんへ治療提供を行います。
心アミロイドーシスの重要な所見は、病的に沈着したアミロイドタンパク質による心筋壁肥厚です。しかしながら、心室の壁肥厚を引き起こす疾患は数多くあります。
従いまして、心筋肥厚の鑑別診断も当院心臓アミロイドーシス専門外来の管轄範囲内であり、あらゆる最新の診断検査 (心臓超音波ストレイン解析、心臓MRI、心臓RI検査、遺伝子検査、組織学的検査、心筋生検など) が利用可能です。

(注釈:CMR、心臓磁気共鳴; ECV、細胞外容積; LGE、後期ガドリニウム増強; NT-pro-BNP; N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド; HFpEF; 駆出率維持心不全)
早期診断の重症性
手根管症候群は最も一般的な末梢神経障害ですが、ATTR心アミロイドーシスでは手首の腱鞘組織にアミロイド沈着が先行するという数多くの報告があります。
これは、手根管症候群の患者さんに心臓スクリーニングを行うことで、ATTR心アミロイドーシスを早期診断できる可能性があることを示唆しています。

当院で現在行われている研究
- 「オールジャパンで行う全身性アミロイドーシスコホート研究」
- 「心電図解析による心アミロイドーシス早期診断法の確立」
(研究内容:工学院大学との共同研究で、人工知能を用いた心電図解析による心アミロイドーシス早期診断法の確立を目的とした研究を行っています) - 「手根管症候群患者におけるトランスサイレチン型心アミロイドーシス早期同定に関する多施設コホート研究」
(研究内容:手根管症候群を有する患者さんを対象に、心アミロイドーシス合併の有病率を調査します)
患者さんへ
心アミロイドーシスでは手首の腱鞘組織にアミロイドが沈着することにより手根管症候群を発症致しますが、近年の研究では、心臓病変よりも手根管症候群が先行するということがわかってまいりました。自覚症状がなくても治療が必要な場合もありますので、手根管開放術の既往のある方や手根管症候群を指摘されたことがある方は一度受診をお勧めします。
地域のクリニックの先生や地域中核病院の先生方へ
症状の有無に関わらず心アミロイドーシスが疑われる患者さんがいらっしゃいましたら、どんな些細なことでも構いませんのでお気軽にご紹介・ご相談下さい。
紹介状作成後、心アミロイドーシス専門外来(金曜日午前)のご予約をお願い致します。
ご紹介は医療連携推進センター (03-5339-3808)までご連絡ください。
※心アミロイドーシスの診断・治療についてご不明な点がございましたら、山本博之までご連絡をお願いします。
循環器内科 講師 / 医学博士 山本博之
日本循環器学会ビンダケル認定処方医
TEL 03-3342-6111(内線 5900), FAX 03-5381-6652
出典:
- 2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン
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