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国内でのCOPD治療、追跡調査結果を発表
~調査で判明したCOPD(慢性閉塞肺疾患)治療効果の有意性と課題~

2015.10.22

報道関係者各位

ニュースリリース

2015年10月22日

国内でのCOPD 治療、追跡調査結果を発表

~調査で判明したCOPD(慢性閉塞肺疾患)治療効果の有意性と課題~
国内初のCOPD 治療に関する追跡調査

 COPDとは従来、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれ、タバコ等による肺の炎症で肺の働きが低下する疾患。現在、日本国内の潜在患者数は530万人以上といわれ、年間約1万6000人がCOPDにより死亡しています。COPDは世界的にも深刻な問題となっており、過去には2003年から4年間にわたり、日本を含む37カ国、約6000人(うち日本人は約100人)のCOPD患者を対象にCOPD治療薬の治療効果に関する臨床試験 :Uplift(Understanding Potential Long-term Impacts on Function with Tiotropium)試験が行われました。
 そしてこの度、東京医科大学病院 呼吸器内科は、都内の国立国際医療研究センター病院(新宿区)、東京警察病院(中野区)、虎の門病院(港区)、聖隷浜松病院(静岡県)の4病院と共同で、国内では初めて、日本人のみを対象としたCOPD未治療患者に対する治療効果の追跡調査を実施し、その調査結果を発表しました

※Survey to determine the efficacy and safety of guideline-based pharmacological therapy for chronic obstructive pulmonary disease patients not previously receiving maintenance treatment. Expert Opin Pharmacother. 2015 Oct;16(15):2271-81.

※実施期間:2012年3月1日から2013年3月29日までの約2年間

※調査対象:過去にCOPD治療を受けていない、50歳以上の中等症から重症患者49名

※調査方法:上記の対象者について、1年間にわたりガイドラインに従って定期的な治療を行いながら、その間の治療効果を追跡調査

追跡調査により実証されたCOPD治療効果の有意性

 中等症から重症COPD 未治療患者に対し、ガイドラインに沿った治療を行うことで、「一秒量」の経年低下を抑制(-20ml/年トラフ;+2.13ml/年ピーク)するだけでなく、CATスコアに関して、咳、痰、息切れなどが統計学的有意差を持って改善しました。さらに、身体機能の改善もみられました。身体活動性の向上は、COPDの病状などがさらに悪化する「増悪」を抑制するという点で予後の有力な予測因子であり、その改善もまた注目点のひとつといえます。
 以上から、COPDの病期に係わらず、未治療のCOPD患者でもガイドラインに沿った治療を行うことで、健常日本人の「一秒量」の経年低下に近づけることが可能であることがわかりました。
 当院 呼吸器内科ではこの追跡調査の結果を踏まえ、COPD患者のライフスタイルに合わせた治療など、院内の他科と連携を図りながら新たな取組みを進めてまいります。

※一秒量:深呼吸をして一気に吐き出す努力性肺活量のなかで、最初の1 秒間に吐き出した量(一秒量)。努力性肺活量に対するこの一秒量の割合を「一秒率」といい、70%以上が正常といわれる。

※CATスコア:COPDの状態が健康と日常生活にどのような影響を与えているかを調べるためのCOPDアセスメントテスト。

●COPD(慢性閉塞肺疾患)とは

 COPDはかつて肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれ、主にタバコが原因で肺に炎症が起き肺の働きが低下する疾患です。代表的な症状は咳、痰、息切れなどで、患者の約70%が日常生活において何らかの制限を受けています。
 現在、日本の潜在的患者数は530万人以上で、40歳以上の成人人口の8.6%を占めます。そのうち90%以上が未診断と言われるなか、COPDよる死亡は年間約16,000人で増加傾向にあり、死亡原因の9位、男性では7位に位置しています。
 そのため、COPDに費やされる医療費も増え続け、その年間総医療費は推計8,055 億円、COPDの増悪に関わる医療費は全体の40~57%を占めています。そして、厚生労働省が主幹となって進めている「21世紀における国民健康づくり運動(通称、健康日本21)」において、対象となる特定疾患にCOPDが新たに追加されました。

●追跡調査実施の背景

 近年、全世界においてCOPD患者は40歳以上の人口の約11%を占めると言われ、それにより医療費の高騰を招くなど、海外でも大きな問題となっています。
 そのため、2003年から4 年間にわたり、日本を含む37カ国、約6000人(うち日本人は100人)のCOPD患者を対象に、世界的規模で新たなCOPD治療薬の治療効果に関する臨床試験:Uplift(Understanding Potential Long-term Impacts on Function with Tiotropium)試験が行われました。
 COPDの増悪、予後において長時間作用抗コリン薬(Tiotropium)を服用した群が有意差を持って改善しました。しかし、「一秒量」の経年低下までは有意差をもって抑制ができませんでしたが、サブ解析において、中等症、50歳以上の未治療患者において、「一秒量」の経年化の抑制を示したことが明らかになりました。ただ、この未治療COPD患者のなかに日本人は4 名しか含まれておらず、この試験結果はそもそも日本人に限ってその正しいのか。さらに、海外と比べ日本人のCOPD 発症年齢はなぜ高いのか。海外患者より増悪率が低いのはなぜか。こうした疑問を明らかにしたいという理由で、日本人のみを対象とした国内初のCOPD治療を対象とした本格的な追跡調査が行われました。

●追跡調査の概要と調査結果

 COPDには、空気を胸いっぱいに吸い込んでそれをすべて吐き出させてその数値をみる肺機能検査が用いられます。この、一気に吐き出す量を「努力性肺活量」といい、最初の1 秒間に吐き出した量を「一秒量」といいます。そして、努力性肺活量に対するこの一秒量の割合(一秒率)が70%以上の場合に正常といわれます。


 今回の追跡調査では「一秒量」の経年低下が、Uplift試験のCOPD未治療患者4 名を含む100名の日本人と比較して、トラフではほぼ同じであり、ピークにおいては本試験のほうが2.13cc 改善し治療効果が実証されました。


 また、CATスコアに関して、咳、痰、息切れなどが統計学的有意差を持って改善しました。


 更に今回、「身体活動性」の指標も追跡調査の対象としました。その結果、COPD治療により身体機能の改善もみられるなど、身体活動性についての有意性が認められました。


 身体活動性が落ちると予後に大きな影響があるなど、身体活動性は予後の有力な予測因子です。



 さらに、身体活動性の向上により 「増悪」を減らす効果も期待されます。


 増悪は1度起こすと何度も繰り返すようになり、その期間も短縮していきます。しかも、起こさない場合と比べて死亡率が4.37倍も高くなるというデータもあることから、身体活動性の向上による「増悪」の抑制という今回の調査結果もまた注目に値すると言えます。

●COPD(慢性閉塞肺疾患)治療の課題と取組み

 COPDは、肺にとどまらずさまざまな合併症を引き起こす原因にもなり、全身に症状が現れる病気です。それにも関わらず、潜在的患者数のうち90%以上が未診断ということからもわかるように、日本での認知度は極めて低いのも事実です。
 本試験から明らかになったように、COPDの病期にかかわらず、ガイドラインに沿った適切な治療を行うことは、「一秒量」の経年低下を抑制し身体活動性の改善をもたらすことから、COPD治療の介入は病期によらず重要であると言えます。
 今後、当大学病院では、患者および担当医師双方に対してCOPDの意識向上を図るとともに、今回の追跡調査で明らかになったCOPD治療効果について、呼吸器内科と他科が情報共有しながら、包括的かつそれぞれの患者のライフスタイルに合わせたテーラーメイドな治療の実現に取組んでまいります。

以上

リリースに関するお問い合わせ先

東京医科大学病院
経営企画・広報室 広報担当

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