お知らせ
「再生医療」が一歩身近に
~国内初、ヒト細胞を用いた再生医療製品による自家培養表皮移植手術を実施~
2010.07.03
報道関係者各位
ニュースリリース
2010年7月3日
「再生医療」が一歩身近に
~国内初、ヒト細胞を用いた再生医療製品による自家培養表皮移植手術を実施~
研究レベルから治療レベルへと進化した日本の再生医療
患者のヒト細胞を用いて組織をつくり、それを患者に移植する再生医療は、国内においても既に行われています。しかし、それはいわば「研究」レベルでの取組みであり、一般患者にとって身近な「治療」ではありませんでした。
その理由のひとつが、表皮の培養はオーダーメイドであり、その分コストが高くつくという点です。そこで、国内の再生医療品メーカー株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)では細胞培養の製品化に取組み、日本初のヒト細胞を用いた再生医療製品として培養表皮「ジェイス®」を開発しました。
この度の手術は、熱傷患者への皮膚移植において、「製品化」された自家培養表皮を用いた新たな治療法の導入事例となります。
「日本初の再生医療製品」として開発された自家培養表皮の移植手術
2009年11月20日(金曜日)13時、東京医科大学病院5階手術室において松村一形成外科科学講座教授よる自家培養表皮の移植手術が行われました。
同手術では全身44%の熱傷患者に対して、既に移植し終えた人工真皮とスキンバンクから入手した同種皮膚の上に、患者の表皮細胞を培養した再生医療製品の「培養表皮シート」を移植しました。
その後、熱傷創の閉鎖は順調に進み、現在既に当該患者は退院して日常生活に戻っています。
自家培養表皮の移植手術 |
柔軟で良好な皮膚が再現 |
●培養表皮とは
「最大の臓器」といわれるヒトの皮膚の総面積は、成人で平均1.6㎡にも達します。組織学的には表皮、真皮、皮下組織の順に層を形成しており、なかでも、表皮を構成する表皮細胞の増殖能力が非常に優れているため、皮膚は速やかに再生します。
しかし、熱傷などにより皮膚が広範囲に失われた場合には、再生が間に合いません。そこで、正常な皮膚から表皮細胞を取り出し、フラスコで培養し皮膚のようにシート状にして受傷部に移植する培養表皮が開発されました。
今回の手術において用いられた「Green型培養表皮」は、1970年代にハーバード大学医学部のHoward Green教授が生み出した手法をベースに、J-TECが日本初のヒト細胞を用いた再生医療製品として開発したもので、1c㎡程度の正常な皮膚組織から表皮細胞を分離して培養すると、約2週間で1千c㎡を超える培養表皮シートを作製することができます。
●自家培養表皮を製品化することの有用性
培養表皮は患者自身の細胞から作製するため、移植しても免疫拒絶されず自己の皮膚となるという点が最大の有用性です。
さらに、それを製品化することで下記の有用性が得られます。
1.安全性重視の品質管理
実験室でのハンドメイドではなく、企業がエンジニアリングのノウハウを活かし、高度な品質管理のもとで
培養表皮シートを作製します。
2.皮膚細胞の保存による患者への負荷軽減
一度採取された皮膚細胞は、メーカーにて30年間保存されます。そのため、必要に応じて、そのつど何度でも
培養することができます。
3.スピーディなデリバリー対応
製品化の考え方は、工場からの出荷にも貫かれています。
培養表皮シートは、オーダーを受けた3週間後に日本全国へ配達される対応がとられています。
4.保険適用
ヒト細胞・組織を利用した再生医療製品としては、国内初の保険適用となります。
患者の表皮細胞を培養 |
培養表皮シート |
再生医療製品として配達 |
●注目を集める自家培養表皮の新たな可能性
2010年6月4日・5日、パシフィコ横浜で開催された第36回日本熱傷学会総会・学術集会。このシンポジウムにおいて、前出の松村一形成外科科学講座教授より「培養表皮移植における創管理上の問題点と工夫~われわれの経験から」と題して、この度の移植手術に関する発表が行われ、関係者から大きな注目を集めました。
このように培養表皮を用いた熱傷治療に期待が集まるなかで、さらに培養表皮は速やかに傷を閉鎖できるすぐれた能力のほか、メラノサイトを含む色素性皮膚疾患に対する有用性も明らかになっており、今後は母斑や潰瘍など様々な疾患への適用も考えられます。
当大学病院の形成外科では、安全で品質の高い再生医療製品を用いたこの度の手術について、再生医療をさらに身近なものにし、日本の医療に貢献する一歩であると考えております。
東京医科大学病院
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