お知らせ
IMRT(強度変調放射線治療)の新たな可能性を拓く
~補償フィルターを用いた「ヒトにやさしいIMRTに取り組む~
2010.04.01
報道関係者各位
ニュースリリース
2010年4月1日
IMRT(強度変調放射線治療)の新たな可能性を拓く
~補償フィルターを用いた「ヒトにやさしいIMRT」に取り組む~
補償フィルターによるIMRTを日本で最初に開始
東京医科大学病院は、2009年1月に日本で初めて補償フィルターを用いたIMRTを開始しました。以来、十数例の実績を通じて、そのすぐれた特長を活かしながら「ヒトにやさしいIMRT」に取り組んでいます。
補償フィルターとは、IMRTを行う際に一本の放射線のビーム力を変換して、最適に放射線を分散させるものです。当病院では、IMRTの治療計画情報を米国のベンチャー企業である.decimal,Inc.に転送し、その情報をもとに.decimal,Inc.で製作した補償フィルターを検証したうえで、治療に使用するという方法を採用しています。
さまざまな利点を兼ね備えた補償フィルターによるIMRT
現在、日本ではMLC (multi-leaf collimator、多分割コリメータ)を用いたIMRTが主流です。そうしたなか、当病院が日本で初めて補償フィルターを用いる方法を採用した理由として、MLCの課題(運動にともなう不安定さ・リーフ幅にともなう精度の限界など)をクリアできることに加え、治療時間の短縮、放射線の被ばく逓減、検証にかかる時間の短縮などの利点が挙げられます。つまり、患者さまにも医療従事者にもやさしい、言い換えれば、「ヒトにやさしいIMRT」を行うことができる点こそ、補償フィルターを用いる方法の大きな特長といえます。
さらに、この方法は呼吸同期照射への対応が容易であり、また、施設間の精度管理が標準化できるため、いくつもの施設が共同で研究できるようになるなどの利点も兼ね備えています。
当病院では、このような点も踏まえながら、補償フィルターを用いたIMRTの新たな可能性を、今後も積極的に追求していきたいと考えております。
※補償フィルターを用いたIMRTによる治療風景
●放射線治療の考え方にコペルニクス的転回をもたらしたIMRT
IMRT(強度変調放射線治療)は、腫瘍部分に放射線を照射して治療する照射技術であり、その点ではこれまでの放射線治療と同じです。ただし、通常の放射線治療の場合、放射する領域内の放射線は強さがすべて均一なのに対して、IMRTではコンピュータで治療に最適な線量分布(吸収具合)を計算し、そのデータをもとに放射線の強度を不均一(強度変調)に照射します。それにより、従来より正常組織に照射する線量が減り、より治療効果を高めながら、放射線による合併症のリスクを軽減することが可能になりました。
放射線を当てた時に、実際にどの程度当たっているかをシミュレーションし、それが妥当であれば治療を行うという、従来の放射線治療の考え方。それに対して、IMRTは、標準体積に投与する線量、危険臓器の限界線量、体積を最初に設定するという、「コペルニクス的転回」の考え方に立つ放射線治療であるといえます。
※通常の放射線治療の説明図
※IMRTの放射線治療の説明図
●補償フィルターを用いたIMRTの特長
現在、IMRTには大きく2つの方法があります。1つはMLC(multi-leaf collimator、多分割コリメータ)を用いる方法であり、我が国ではほとんどの施設が採用しています。この方法では、コンピュータでMLCを制御しながら、コンピュータの計算で得られた治療計画(インバースプラン)通りのビームパターンで多方向から照射します。
それに対して、当病院が行っている補償フィルターを掘削してビームパターンをつくりだす方法の場合、MLCを用いる方法と比較して、以下のような利点があります。
① MLCを用いないため、その運動に伴う不安定さがない。
② リーフ幅に伴う精度の限界がない。
③ 最大の線量率で照射できるため、治療時間を短縮できる。
④ 低エネルギー成分の放射線被ばくを低減できる。
⑤ 毎回の検証かかる時間を減らすことができる。
⑥ これまでは無理であった呼吸同期照射への対応が容易になる。
その一方で、課題としては補償フィルターを照射門ごとに交換する必要がある、標的の体積が大きくなればそれだけ補償フィルターのサイズも大きくなり、加工に要する時間や補償フィルターの交換の手間、および補償フィルター購入の費用負担が大きくなるなどの点が挙げられます。
※補償フィルターの立体データ
※補償フィルターの作製物
●補償フィルターを用いたIMRT試行までの流れ
診療によりIMRTの適応が決定すると、CT・MRI撮影が行われ、そこで得たデータにより輪郭入力および線量の処方を行います。
そして、それらをもとに治療計画(インバースプラン)をつくり、それが妥当と判断されたところで補償フィルターのデータを作成して、その補償フィルターを装着したと仮定して得られる線量分布が満足いくものであれば、治療計画を終了。補償フィルターを作製するためのデータを米国の.decimal,Inc.に転送し、補償フィルターの製作を依頼します。
補償フィルターが当病院に送られてくる日数は、輸送期間も含めて約5日。到着後は、各補償フィルターおよび全体の検証を行ったうえで、治療を開始します。治療にあたっては、照射の位置合わせに高い精度が求められるため、当病院では超音波ガイドシステム「SonArray」を用いて微調整しています。
1回の治療に掛る時間は約15分と、他のIMRTと比べて半分程度の時間で済むため、患者さまへの負担を大幅に低減することができます。また、IMRTが医療従事者に過度の残業を強いているなかで、補償フィルターの作製をアウトソーシングするこの方法は、医療従事者の業務負担を大きく減らす効果も期待できます。これらの点こそ、補償フィルターを用いた方法が、「ヒトにやさしいIMRT」といわれる由縁です。
●補償フィルターを用いたIMRTの将来性
IMRTの可能性を広げるキーワードは「ネットワーク化」です。今後、IMRTを効率よく利用するために、IMRTをモジュール化し、病院で対応する必要のないものは中央化するなどの方向性が考えられます。
その際、当病院が先駆けて開始したこの補償フィルターによる方法が普及することで、施設間の精度管理が標準化されるため、複数の施設における臨床試験や共同研究へとつながります。さらに、遠隔放射線治療実現の可能性をさぐるなど、当病院では今後もIMRTについての先進的な取り組みを推進してまいります。
東京医科大学病院
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