カテーテルという特殊な細い管状の器具を血管内に挿入して行う治療法です。大動脈疾患、大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症などにおいて、カテーテルを使用した治療では、従来の外科的な手術よりも低侵襲で、回復が速く合併症のリスクが低い特徴があります。
脳血管内治療は「カテーテル」と呼ばれる直径0.5-3mmの細い管を頚部や脳の血管へ誘導し、治療対象へ到達させ、血管の内側から治療する方法です。足の付け根や肘の部分に小切開を加え、皮膚や頭蓋骨を切らないため、開頭手術と比較し身体への負担が少ないのが「脳血管内治療」の利点です。疾患ごとに治療方法は異なりますが、詰める治療(塞栓術)と拡げる治療(血管形成術)に大きく分けられます。脳動脈瘤や血管奇形などの疾患に対しては、破裂予防や止血目的に血管の内側より詰める治療を行い、脳梗塞の原因となる血管の狭窄などに対しては、血管の内側よりバルーンやステント(金属製の筒)を用い、狭窄を解除します。
【脳動脈瘤に対する血管内治療】
(治療前)
(治療後)
脳動脈瘤にコイルが充填されて、動脈瘤が治療されている。
【左頚動脈狭窄症】
左頚動脈の高度狭窄
ステント留置し血管が拡張
大型動脈瘤や血管そのものが動脈瘤化した紡錘状動脈瘤に対して、これまでの治療法では理想的な根治的治療が困難でありました。これらの治療困難な動脈瘤を対象とする脳血管内治療機器としてFlow Diverter と称されるステントが開発され臨床使用が始まりました。Flow Diverterステントは従来の血管内治療と異なり、脳動脈瘤内にカテーテルを誘導しコイルなどの塞栓物質を充填することなく、動脈瘤に流入する血行を制御することにより、動脈瘤の破裂や増大を防ぎつつ、親動脈を温存するという画期的なものであります。使用施設が限定されている治療方法ですが、東京医科大学病院では2020年よりこの治療を行っております。
不整脈の根治的療法として、その役割は大きく広がっています。 心臓に入れた直径2-3mmの細い管(カテーテル)を用いて、心筋の一部を熱するもしくは、冷やすことで、不整脈の原因となっている部分の電気的活動性をなくしてしまう治療です。
心臓の形をリアルタイムに表示する最新の三次元マッピング装置(図1 CARTO、Ensite Velocity X、Rhythmia)や、高い安全性と効果を実現したイリゲーションカテーテル、新たなエネルギーとして注目されているクライオ(冷凍凝固)カテーテルなど、最新の機器を用いてアブレーション治療を行います。 また心房細動治療の最先端カテーテルである、クライオバルーンを用いた手術も行っています。(図2)2024年には、さらに安全性が高いことが特徴的なパルスフィールドアブレーションを導入予定です。このような進歩に伴い、手術時間を短縮して、患者さんの負担を減らし治療ができるようになりました。
図1.三次元マッピング装置を用いたカテーテルアブレーション
図2.クライオバルーンによる肺静脈隔離術
近年、多くの弁膜症がカテーテルで治せるようになっています。構造的心疾患のインターベンションと呼ばれるTAVI(経カテーテル大動脈弁治療:
transcatheter aortic valve implantation)や経皮的僧帽弁クリップ術、左心耳閉鎖術、卵円孔開存閉鎖術などが、この10年ほどで進歩した治療です。TAVIは高齢の方に多い大動脈弁狭窄症に対して行います。大動脈硬化から大動脈弁狭窄症になり弁の開きが悪くなると、心臓から駆出する血液が障害され、胸痛や心不全が起き、命にも関わる病気です。薬などの内科的な治療が難しく、高齢でさらに肝腎疾患や糖尿病のある複雑なケースの方には、外科的な治療は必ずしもいい結果になりません。以前は諦めざるを得ない状況でしたが、今はカテーテルを使った数時間程度の治療が可能になりました。
経皮的僧帽弁クリップ術は閉鎖した僧帽弁の逆流をカテーテルで治す方法です。左心耳閉鎖術では、心房細動による脳梗塞の予防のためカテーテルで左心耳を閉鎖します。心房中隔に孔が開いている卵円孔開存では、この孔を通って血栓が脳に飛ぶ奇異性脳塞栓症がおきるため、予防のために卵円孔開存閉鎖術を行います。
当科は心臓血管外科とも連携して、外科による開心術が良いのか、カテーテル治療が適するのか、それぞれの患者さんに適切な治療方針を相談しています。カテーテルの治療には、検査も含めておおよそ4〜10日くらいの入院が必要です。
図3.経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
超高齢社会に突入した日本では、循環器疾患は今後益々増えていきます。循環器内科のカバーする領域は幅広く、問診や胸部診察の技術、CT、MRI、シンチなどの画像診断、循環器救急、心不全や不整脈に対する薬物治療、カテーテル治療による侵襲的治療、心臓リハビリ、予防医学、生活習慣管理まで、幅広いスキルが必要です。当科には循環器学における各分野のスペシャリストが揃っております。
様々な疾患を合併した患者さんには、お体への負担が軽減できる低侵襲な治療が有効ですが、全身を管理する総合力が必要です。我々は、低侵襲心臓・血管病治療センターを開設し、循環器内科、心臓血管外科と共同で治療に当たっています。週1回の定期的なハートチームカンファレンスと、緊急時には時間を問わないコンサルトを行い、患者さんのためのベストな治療を行っています。
突然、心臓病と診断され、不安に思っている患者さんも多いと思います。心臓病は放置すれば命に関わることもありますが、予防や治療をきちんと行えば、お体への負担の軽い治療もできるようになっています。まずはご自身のお体のことを良く知り、正しく怖がることが、ご病気への治療に必要です。我々はそのお手伝いをさせて頂きます。他院におかかりの方のセカンドオピニオンも随時行っております。ぜひご相談ください。
低侵襲心臓・血管病治療センター
放射線医学は大きく、画像診断、interventional radiology(IVR)、放射線治療の3領域に分けられます。 IVRとは、「画像下治療」や 「画像支援下治療」を意味し、血管造影、CT、超音波などの画像を見ながら行う体に負担の少ない低侵襲治療のことです。主にカテーテルを用いた血管内治療や経皮的治療などが代表的なIVR治療です。多数の診療科とカンファレンスを積極的に行い、各診療科の先生方と緊密な連携をとって治療にあたります。
内臓動脈瘤とは、脾臓、腎臓、肝臓、腸管などに栄養を送る動脈にできた「コブ」のことです。動脈硬化や高血圧、感染、外傷などが原因となります。通常は無症状で、健康診断や他の疾患の精密検査で偶然見つかる場合が多いですが、2.0cm以上のものは破裂しやすく、破裂した場合、死亡率が高いため治療が必要です。カテーテルを用いて金属製のコイルで塞栓術を行います。瘤の塞栓が不可能な場合は、ステントグラフトを用いて治療します。
【脾動脈瘤塞栓症例】
(左図)脾動脈にコブ(動脈瘤)が形成されています。
(中図)カテーテルを動脈瘤内に進め、動脈瘤の中を金属製のコイルで充填し、塞栓を行いました。
(右図)動脈瘤は造影されず、治療が完了しました。
肝細胞癌の治療法には、「手術」「穿刺局所療法」「TACE」などがあります。「TACE」は、手術不能かつ穿刺局所療法の対象とならない肝細胞癌に対して標準的に行われており、肝細胞癌に対する局所治療として、わが国で開発され進歩してきた治療法です。具体的には、カテーテルを肝臓の動脈まで進め、癌の栄養動脈を選択し、塞栓する治療法です。肝細胞癌は、肝動脈のみから栄養を受けますが、正常肝実質は門脈からも栄養を受けるため、肝動脈を塞栓することにより肝細胞癌のみが壊死に陥ります。治療の手順は、足の付け根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを入れ、肝動脈まで挿入し、造影剤を注入しながらCTや血管造影を撮影し、腫瘍血管の塞栓を行います。
【肝細胞癌TACE症例】
(左図)肝動脈から栄養される巨大な腫瘍濃染が認められます。マイクロカテーテルを腫瘍の栄養血管に挿入し、肝動脈塞栓術を行います。
(右図)肝動脈塞栓後、腫瘍濃染は消失し、腫瘍に造影剤の流入が見られず、治療完了です。
子宮筋腫は40歳以上の女性の20~50%が罹患している極めて頻度の高い子宮の腫瘍です。無症状であれば、経過観察となりますが、有症状例は治療が必要です。主な治療法は、外科的手術療法、ホルモン治療、子宮動脈塞栓術(UAE)があります。当科では、子宮動脈塞栓術(UAE)を施行しております。
子宮動脈塞栓術(UAE)は、カテーテルを用いて子宮筋腫を栄養する血管を塞栓物質で塞栓する治療です。子宮筋腫は子宮動脈より栄養を受けており、塞栓物質により血流を失った筋腫は栄養を受けられなくなり、小さくなっていきます。筋腫が小さくなれば症状の改善が期待できます。
子宮筋腫に由来する症状(過多月経)、圧迫症状(頻尿、下腹部の圧迫感、便秘など)などは85~90%改善し、筋腫の体積も40~70%縮小します。ただし、筋腫の縮小はゆっくりであり、治療効果を実感できるのはおおむね1~3ヵ月以降です。また、子宮全摘術と比較して症状の改善度が劣る場合があります。しかし、術後の回復は早く、早期退院が可能で、かつ保険診療で行えます。
治療の手順は、足の付け根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを入れ、子宮動脈まで挿入し、造影剤を注入しながらCTや血管造影を撮影後、子宮動脈の塞栓を行います。
適応外
無症状の子宮筋腫、子宮癌などの悪性腫瘍がある、骨盤内に炎症がある、妊娠出産を希望している方、閉経後、ホルモン療法中、妊娠中の方は適応外です。
【子宮筋腫UAE症例】
(左図)左子宮動脈にカテーテルを挿入し、子宮動脈造影を施行しました。非常に強い腫瘍濃染像が認められます。
(右図)子宮動脈塞栓術を行いました。腫瘍濃染は消失し、子宮筋腫への血流はほとんど消失しております。この後、右子宮動脈の塞栓も行っています。
産科危機的出血とは、生命を脅かすような分娩時あるいは分娩後の大量出血のことです。
周産期管理の進歩により母体死亡率は著明に低下したものの、産科出血は依然、母体死亡の主要な原因です。生命を脅かすような分娩時あるいは分娩後の出血は妊産婦のおよそ300人に1人に起こる合併症です。産科出血は、一般手術などの出血と比較して急速に全身状態の悪化を招きやすく、短時間でかつ、比較的少量の出血でも、容易に播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥ります。
≪産科危機的出血をきたし、緊急UAEの適応となる疾患≫
産科危機的出血に対する緊急UAEの臨床的成功率は90%以上です。緊急UAEの適応となる主な疾患は、①弛緩出血、②前置胎盤・癒着胎盤出血、③癒着胎盤遺残による出血、④子宮内反症、⑤産道裂傷、⑥子宮摘出後の出血、などです。
喀血は通常、肺の炎症などが原因で気管支動脈と肺動脈との間に短絡が生じることにより生じます。気管支動脈にカテーテルを挿入し、気管支動脈の塞栓を行うことにより、喀血の止血が得られます。
主に、消化管出血、術後出血、腹腔内出血、動脈瘤破裂、腫瘍破裂(肝癌、腎AMLなど)、外傷、難治性鼻出血などに対して塞栓術などのIVR治療を行います。
消化管出血の原因には、潰瘍、膵炎、静脈瘤、大腸憩室、腫瘍、術後などがあります。内視鏡による止血が困難な場合や、外科的治療では身体への侵襲が大きい場合に血管塞栓術を行います。
鼻の奥から出血する難治性鼻出血に対して、鼻の穴から耳鼻科的に処置しても対応困難な場合があります。そのような場合、血管にカテーテルを挿入し、出血血管の塞栓術を行います。
その他、骨盤外傷や腹部内臓損傷による出血などに対しても血管塞栓術を行います。
治療の手順は、造影CTにて出血部位を特定し、カテーテルを出血部位に挿入し、塞栓物質により止血を行いますが、塞栓できない場合は、ステントグラフトを用いて止血を行います。
【消化管出血塞栓症例】
(左図・中図)小腸出血の患者さんです。腸管を栄養する血管にカテーテルを挿入し、血管造影を行いました。空腸に造影剤の血管外漏出像が認められます(矢印)。
(右図)金属コイルによる塞栓を行い、止血に成功しました(矢印)。
【術後出血ステントグラフト留置症例】
(左図)上腸間膜動脈本幹より血管外漏出像(出血)が認められます(矢印)。
(右図)ステントグラフトを留置して(矢印)、止血に成功しました。
腸管や脾臓から肝臓に流れ込む血管のことを「門脈」と言います。肝硬変になると、肝臓が硬くなり門脈の圧が上昇し、肝臓を迂回する側副血行路が発達します。側副血行路は、食道や胃の周囲を通って形成され、大きくなると食道静脈瘤や胃静脈瘤が形成されます。これら静脈瘤は破裂しやすく、出血するリスクがあり、特に胃静脈瘤が破裂し出血した場合は致死率が高いため、破裂する前に治療が必要です。
また、食道や胃を経由せずに側副路が発達する場合があります。肝臓で代謝されるべき毒素が肝臓を通過せず側副路を介して全身に回ってしまうので、側副路の血流が増加すると、肝性脳症が生じます。
胃静脈瘤も肝性脳症も治療方法はほぼ同じです。
治療の手順は、足の付け根の静脈(大腿静脈)からカテーテルを入れ、先端に風船のついたバルーンカテーテルを静脈内に挿入し、左腎静脈(もしくは、側副路の流出路)に誘導します。胃静脈瘤の流出路をバルーンで閉塞し、血流を遮断した状態で、カテーテルから硬化剤を注入し、静脈瘤(側副路)を閉塞させます。
【胃静脈瘤 B-RTO 症例】
(左図)胃後壁に胃内に突出する拡張した胃静脈瘤が認められます(矢印)。
(中図)胃静脈瘤の流出血管をバルーンカテーテルで閉塞しながら、硬化剤を静脈瘤に注入し胃静脈瘤を塞栓します(矢印)。
(右図)治療後、胃静脈瘤は血栓化し、造影効果は消失しております(矢印)。
肝硬変など何らかの原因で門脈圧が上昇すると、門脈につながる脾静脈の圧も上昇し、脾臓が腫大してきます。脾臓は主に古くなった血球をとらえ、破壊する機能を持っています。脾腫が生じると、脾機能が亢進し、血小板が減少します。血小板が減少すると出血傾向がでてきます。
脾動脈を塞栓すると、脾臓が壊死して、脾機能が低下し、血小板が増加します。また、門脈に流れ込む血流が減少し門脈圧が低下するため、腹水など門脈圧亢進に伴う症状も軽減します。
【脾腫PSE症例】
(左図)脾動脈造影で、巨大な脾腫が認められます。
(右図)脾動脈塞栓後。脾臓の造影効果が部分的に消失しております(矢印)。塞栓後、血小板は上昇しました。
通常、肺は生体内で、血液の酸素化と同時にフィルターの役割も担っています。肺動静脈瘻(動静脈奇形)とは、肺の動脈と静脈にバイパスができた状態であり、全身の組織から肺にかえってきた二酸化炭素を多く含む静脈血が正常の肺実質を介さずに、酸素化されずに心臓に流れこんでしまいます。また、下肢静脈などに生じた血栓が、正常の肺組織でトラップされず、動静脈シャント部をすり抜け、心臓に流れ、脳梗塞などを引き起こす可能性があります。下肢や下腹部などの細菌塊などがシャント部をすり抜けると、脳膿瘍などを引き起こす可能性もあります。そのため、太い流入動脈がある場合(通常3mm以上のもの)や脳梗塞の既往がある方は治療が必要です。また、肺動静脈奇形が破裂し、肺出血などを起こす場合もあります。
肺動静脈瘻(動静脈奇形)は健康診断などで偶発的に発見されることが多いですが、息切れ、倦怠感、呼吸困難などの症状で見つかる場合もあります。CTやMRIなどの検査を行い、肺動静脈奇形(瘻)の流入動脈、流出静脈を同定し、カテーテル治療を行います。
治療の手順は、足の付け根の静脈(大腿静脈)からカテーテルを入れ、肺動脈まで挿入し、肺動脈造影を行います。肺動静脈奇形(瘻)の流入動脈にカテーテルを挿入し、金属コイルで塞栓を行います。血流が早い場合は、バルーンカテーテルを用いてフローコントロール下に行う場合もあります。
【肺動静脈瘻(肺AVF)塞栓症例】
(左図)左肺動脈にカテーテルを挿入し、肺動脈造影を施行しました。左肺に2か所、曲がりくねった血管(肺動静脈瘻)が認められます(矢印)。
(右図)肺動静脈瘻のコイル塞栓術を行いました(矢印)。塞栓後、肺動静脈瘻は描出されなくなりました。
腎動静脈奇形(瘻)は腎動脈と腎静脈が直接つながった構造をしています。腎動静脈奇形(動静脈瘻)を放置すると増大し、破裂、腎出血、血尿が生じる可能性があります。また、シャント血流量が多くなると心不全になる可能性があります。*
CTやMRIなどの検査を行い、腎動静脈奇形(瘻)の流入動脈、流出静脈を同定し、カテーテル治療を行います。
大腿動脈からカテーテルを入れ、腎動脈造影を行い、腎動静脈奇形(瘻)の流入動脈を同定します。流入動脈にバルーンカテーテルを挿入し、液体塞栓物質と金属コイルで塞栓を行います。静脈側から塞栓を行う場合もあります。
骨盤内動静脈奇形も同様の方法で治療を行います。
ステントグラフト内挿術は、手術のように瘤を切り取ってしまうのではなく、瘤をステントグラフトで内側から覆うことにより、瘤内圧を下げ、瘤を破裂しないようにする治療です。ステントグラフト内挿術を行うと、瘤内圧が急激に低下します。そのため、本来は、大動脈から分枝血管に流れている血流が、分枝血管から瘤内に逆流してくる現象が見られます。この現象のことをエンドリークと言います。また、ステントグラフトの密着不足などにより、ステントグラフトと血管壁の間から血液が漏れて動脈瘤内に血流が流入するタイプのエンドリークもあります。
ステントグラフト治療後、経過観察中にエンドリークがなくならず瘤径が拡大してくるような場合には、動脈瘤壁に血圧がかかり動脈瘤が拡大し、破裂の危険性が出てくるため、経カテーテル的に分枝血管の塞栓術や直接瘤内塞栓術などの追加治療が必要になります。
【エンドリーク塞栓症例】
(左図)腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置後ですが、瘤内に造影効果(エンドリーク)が認められます(矢印)。
(右図)カテーテルを腰動脈から瘤内まで進め、流出血管、動脈瘤内、流入血管を塞栓しました(矢印)。
動脈硬化とは、コレステロールの動脈壁への付着などによって、血管が硬くもろくなる病気です。脳の血管に動脈硬化が進むと脳虚血発作や脳梗塞などが、心臓の血管に動脈硬化が進むと狭心症や心筋梗塞などが起こります。
腸骨動脈に動脈硬化が起こり、血管が狭くなったり閉塞したりすると、歩くと下腿のしびれや痛みが出たり(間欠性跛行)、ひどくなると安静にしていても足の痛みが生じたりします。放っておくと、足の皮膚がただれたり(潰瘍)、腐ってしまい(壊疽)、最終的には足を切断しなければならない場合があります。
腎動脈に動脈硬化が起こり、血管が狭くなったり閉塞したりする病気を、腎動脈狭窄症と言います。腎動脈狭窄症になると腎機能が悪くなり、血圧が高くなります。後者を腎血管性高血圧と言います。
治療は病変部にカテーテルを挿入し、狭窄部(閉塞部)の拡張を行います。治療の手順は血管内にカテーテルを入れ、X線の画像を見ながら目的の血管までカテーテルを進め、血管を描出するための造影剤を注入し、血管の狭窄程度や血流の状態を詳しく調べます。狭窄部(閉塞部)にガイドワイヤーを慎重に挿入し、狭窄部(閉塞部)を通過させた後、バルーンカテーテル(風船のついたカテーテル)を挿入し、狭窄部(閉塞部)をバルーンで拡張し、金属性のステントでしっかりと拡張します。
図:血管拡張術
【腎動脈狭窄ステント留置症例】
(左図)右腎動脈の起始部に狭窄が認められます(矢印)。
(右図)右腎動脈狭窄部にステントを留置しました。右腎動脈の内腔は良好に拡張し、腎動脈血流は改善しています(矢印)。
【腸骨動脈狭窄ステント留置症例】
(左図)左総腸骨動脈の起始部が閉塞しています(矢印)。側副路(バイパス)を介して末梢側の血管が描出されています。
(右図)左総腸骨動脈閉塞部にステントを留置しました(矢印)。左総腸骨動脈の内腔は良好に拡張し、側副路も目立たなくなりました。
動脈瘤に対しては、従来、開腹外科手術が行われてきました。しかし、近年の血管内治療の進歩、経皮的止血デバイスの保険適応により、開腹せずステントグラフトを用いて経皮的に血管内より治療することができるようになりました。ステントグラフトとは、外科手術に使用する人工血管と同様の布を金属ステント(筒状の金網)に縫い合わせて作成した特殊な人工血管のことです。
局所麻酔下で、大腿動脈からカテーテルという管を挿入し、その管を介してステントグラフトを大動脈内に挿入します。ステントグラフトで動脈瘤の内面を覆うことにより、ステントグラフトの中だけを血液が流れるようになり、動脈瘤の拡大や破裂を防止することができます。ステントグラフトは動脈内で拡張し、金属製のアンカーの働きにより永久的に動脈内に留置されます。
治療前に造影CTによる詳細な血管計測が必要で、すべての方が治療適応になるとは限りません。
【ステントグラフト治療症例】
図:両側腸骨動脈瘤に対してステントグラフトを留置しました。
腎血管筋脂肪腫は良性腫瘍ですが、血流豊富な腫瘤で、大きくなれば、破裂、腎出血、血尿が生じる可能性があります。特に、腫瘍が破裂すると、大出血となり生命に危険が及ぶことがあります。そのため、サイズが大きい場合や、腎外に突出している場合に、予防的に塞栓術を行います。腎血管筋脂肪腫の流入動脈にバルーンカテーテルを挿入し、液体塞栓物質と金属コイルで塞栓を行います。
腎癌など血流豊富な腫瘍や脊椎腫瘍などを手術する場合、術中に大出血を起こす可能性があります。また、大きな腫瘍のため、術中にすべての栄養血管を確認し、結紮(血管や組織のある部分を糸などでかたくしばること)できないこともあります。
術中の出血量を極力抑えるために、術前に腫瘍の栄養血管の塞栓を行います。血管造影にて腫瘍の栄養血管を同定し、経カテーテル的に塞栓術(TAE)を行います。
治療の手順は、足の付け根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを動脈内に挿入し、造影剤を用いた血管造影やCTで腫瘍動脈を確認し、腫瘍の栄養血管を塞栓物質で塞栓します。
【頭頚部腫瘍術前塞栓症例】
(左図)舌の裏に、強く造影される血流の豊富な腫瘤が認められます(矢印)。手術の際に多量の出血が予想されます。
(右図)術前に塞栓術を行い、腫瘍濃染は消失しました(◯印)。術中、出血はほとんど見られず、安全に手術が終了しました。
肝臓に腫瘍があり、肝臓を切除する必要がある場合、肝切除後、残肝機能が著明に低下する可能性があります。そのため、残存させる肝臓を手術前に肥大させる目的で、術前に門脈を塞栓する治療を行います。
門脈を塞栓することにより、塞栓された肝臓は萎縮し、塞栓されていない肝臓は代償性に腫大します。切除する肝臓の門脈を塞栓することにより、残存予定の肝臓の体積が増大し、術後の残肝機能の上昇が得られ、術後肝不全を予防することが可能です。
門脈を塞栓しても、肝臓は肝動脈と門脈で栄養を受けているため、肝梗塞や肝不全になることはありません。門脈を塞栓された肝臓は徐々に萎縮します。
治療の手順は、経皮的に超音波ガイド下で門脈を穿刺し、カテーテルを門脈内に挿入し、造影剤を用いた血管造影やCTを行います。その後、切除予定の肝臓の門脈を塞栓物質で、塞栓を行います。
【肝切除術前PTPE症例】
(左図)胆管癌で手術予定の患者さんです。経皮的に肝臓を穿刺して、カテーテルを門脈内に挿入し、門脈造影を施行しました。肝内の門脈が良好に描出されています。
(中図)門脈右枝をバルーンカテーテルで閉塞しながら、塞栓物質を注入し、門脈右枝を塞栓しました。
(右図)門脈右枝塞栓後の門脈造影です。門脈右枝は造影されておりません。1か月後、安全に肝切除が施行されました。
運動器の慢性疼痛への治療法としては、従来、保存的治療(薬物療法、理学療法)や手術療法が行われてきました。薬物療法には、消炎鎮痛剤や神経障害を改善する薬など症状改善のための薬剤が用いられています。理学療法は全身の主に筋肉の緊張や姿勢などにアプローチすることで疼痛症状を改善させることを目的として広く行われています。ただし、これらの一般的な保存的治療では満足に改善しない方が7割以上に上ることが報告されています。
運動器カテーテル治療(経動脈的微細血管塞栓術:TAME)は、慢性疼痛に対する新たな治療法として最近行われるようになり、注目されている治療法です。血管造影を行い、疼痛部分にできている異常な微細血管に塞栓物質を注入して閉塞させることにより、除痛を得る治療法です。慢性疼痛への治療法としては、2012年に日本で行われたのが最初で、以後、多くの方がこの治療を受けています。新たな治療の選択肢として期待される治療法です。
門脈圧亢進により様々な症状が生じますが、その一つに難治性腹水があります。利尿剤など保存的治療でも改善されない場合に、この治療法を検討します。
門脈と肝静脈との間に金属性のステントを留置し、門脈‐大循環短絡路を形成し、門脈圧を下げる方法です。門脈血が体循環へと流れ込むために、門脈圧が下がり難治性腹水など様々な症状の改善が期待できます。
治療の手順は、内頸静脈を穿刺し、肝静脈にカテーテルを進め、肝静脈から門脈を特殊な針で穿刺して、バルーンでその経路を拡張し、ステントを留置します。
ただし、この治療は保険適応外のため、全て自費診療となります。
【難治性腹水TIPS症例】
(左図)治療のシェーマです。青い三つ叉の血管が肝静脈、橙色の血管が門脈です。肝静脈と門脈の間にステントグラフト(矢印)を留置します。
(右図)治療完了後の血管造影です。門脈からの造影で、門脈から肝静脈が描出されており、治療に成功しました(矢印)。
当科には(日本IVR学会専門医6名を含む)7名のIVR医が勤務しており、夜間、休日を問わず、消化管出血、産科出血、外傷性出血などに対する緊急IVRの依頼にも対応しております。
IVR専門医(放射線カテーテル治療専門医)、インターベンションエキスパートナース(Intervention Nursing Expert:INEの資格を有する認定看護師)、血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師など、各職種のエキスパートが最善を尽くして治療に取り組みますので、安心して治療をお受けください。