産科・婦人科 准教授
小野 政徳(おの まさのり)
こんな方に読んでほしい
次世代に繋がる生殖医療と周産期医療に、
チーム一丸となって向き合う
現代は多くの方が不妊症に悩む時代です。日本で体外受精や顕微授精など、生殖補助医療を受けて生まれる赤ちゃんは10〜11人に1人といわれています。東京医科大学病院産科・婦人科(診療科長 西 洋孝 主任教授)には、「リプロダクションセンター(担当医師:小野 政徳 准教授ら)」と「地域周産期母子医療センター」があり、それぞれの患者さんの状況に合わせたテーラーメイドの医療を提供しています。
リプロダクションセンターは生殖医療を行う施設で、2019年7月、新病院開院に合わせて設立されました。前任の久慈 直昭教授の元、採卵室や培養室を設置し、必要な専門職を配置するなど、日本産科婦人科学会の規定で求められる生殖補助医療の実施登録施設の基準を満たすよう整備されました。当院では産科・婦人科の外来は3階にあり、リプロダクションセンターは6階に位置しています。どちらに通われる患者さんにとっても、施設が別になっており受診しやすいのではと考えています。また、リプロダクションセンターは男性患者さんも受診していただきやすい環境だと思います。
当院リプロダクションセンターは生殖補助医療のみに偏らない、生殖医療全般を扱っており、大学病院の強みを活かして生殖外科(腹腔鏡手術、子宮鏡手術)、遺伝子診療センターと連携した遺伝子診療、先進医療を含め、それぞれの患者さんに適した治療を提供できる体制を整えております。当センターで特徴的な治療の一部をご紹介します。
妊娠しやすい状態を目指す生殖外科手術
子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮形態異常等は生殖年齢にある方の年代に多い病気です。必要な時には手術によって治療し、妊娠しやすい状態を目指します。多くの場合、腹腔鏡や子宮鏡を用いて低侵襲手術を行っています。ダグラス窩(受精・着床に重要な子宮後面の部位)を再建するなど、生殖に関わる子宮や卵巣が正常に機能できるように配慮する手技がポイントです。手術の後、一般不妊治療あるいは生殖補助医療を行うのか判断が必要で、科学的事実に基づいてご相談に応じています。おかかりの医療機関から手術のために当院へご紹介いただくことも多く、医療機関同士の連携を密に行っています。
遺伝子診療センターと連携した治療
正確な遺伝学的情報や科学的根拠をもとに、着床前遺伝学的検査、出生前遺伝学的検査、遺伝カウンセリングを行えるのも、遺伝子診療センターを備えた当院ならではです。医学的な配慮をした上で、ご家族の遺伝に関する情報を理解するお手伝いも可能です。
がん患者さんなどの妊孕性温存療法(卵子・精子の凍結)
15歳から30歳代のAYA世代のがん等の患者さんが、化学療法・放射線療法を受ける前に未受精卵子、精子、受精胚、卵巣組織を凍結保存できます。将来、子どもを持つ希望について、多職種のスタッフが連携して正確な情報を提供し、皆さまの協働意思決定をサポートします。また、私たちは妊孕性温存療法の知識を全国に広める普及活動も行っています。
反復着床不全にタクロリムス投与療法
良好胚を3,4回以上胚移植しても妊娠しない反復着床不全の方に、原因検索を行っています。免疫機能が原因と考えられ、他の条件が満たされている場合、免疫抑制剤として使われている薬、タクロリムスで効果が出る可能性があります。まだ確立した治療とされていませんが、条件を満たす方は先進医療としてタクロリムス投与療法に参加することができます。詳細はこちら>>
当院の地域周産期母子医療センターは、特定機能病院として高度な周産期医療を提供しています。低体重の新生児、手術が必要な新生児、母体合併症などに対して、産科、小児科、小児外科で連携して治療する体制です。また、関連各科と協力して糖尿病や甲状腺疾患、血液疾患、心疾患などをもつ方の出産に対応しています。院内のほか、NICU(新生児集中治療室)のない医療施設からも、24時間体制で救急処置が必要な母子を受け入れています。より患者さんに適する医療を提供するため、複数の医師でディスカッションを行うグループ制の診療体制を構築しています。
当院では妊婦さんのリスクを評価した上で、出産する施設を選択いただいております。遠方から来られている妊婦さん等に、お近くの医療機関をご紹介する場合もあります。
また、ご希望がある方で事前にご予約をおとりいただいた方には、硬膜外麻酔による無痛分娩を行っています。現在、当院で経腟分娩によってご出産する方で、無痛分娩を選択される方は約80%です。前もって入院日を決める計画分娩で対応していますが、予定日までに陣痛が始まった場合でも、できる限り無痛分娩を提供しています。また、NICU、麻酔科、ICU(集中治療室)、救命救急センター等と密に連携し安全な出産をサポートする体制を整備しています。
生殖医療にはさまざまなアプローチがあります。一般不妊治療と生殖補助医療は多くの産婦人科施設が行っています。一般不妊治療でタイミング法や人工授精、生殖補助医療にあたるのは、体外受精や顕微授精、胚移植などです。さらに、当院では、生殖外科手術や遺伝子診療、先進医療、他科と連携して合併症を持つ患者さんの治療も行っています。合併症がある方の妊娠は、妊娠に耐えられる状況かどうか主治医の判断が必要です。現状では難しくても、病気の状態を改善するプレコンセプションケア*によって妊娠が可能になる方もいます。
患者さんの状況によっては、当院以外で治療できるケースもあるので、他の医療施設とも協力して患者さんに必要な治療を提供する方針です。手術だけ当院で受け、おかかりのクリニックで生殖医療を継続する方もいます。当院ならではの生殖医療が必要な方は全国さらに海外からも来院されています。私たちは、ご紹介で来院された患者さんにとって、いわば最後の砦として力を尽くす覚悟です。
また、当院では患者さんの気持ちに寄り添いサポートするトレーニングを受けた生殖医療コーディネーター、認定がん・生殖医療ナビゲーター、不妊症看護認定看護師、助産師がおりますので、ひとりで悩まずにぜひ、お声かけください。
私が産婦人科医となった理由は、人は何のために生きるのかという素朴な疑問からでした。生物学を勉強するうちに、生物にとって次世代を残す生殖あるいは次世代の育成をサポートすることが、極めて重要だと考えるようになりました。産婦人科は患者さんの人生に大きく関わり、貢献できる分野です。赤ちゃんの誕生は嬉しく、不妊症で悩まれていたカップルに妊娠して喜んでいただけるというやり甲斐もあります。私達の使命は、人間愛に基づいて必要としている患者さんに良質な医療を届けることです。そのためには自分達が使えるもの全てを使い、努力を惜しまない診療を続け、新たな医療を開発しようと決意した軸は、今も揺らいでいません。
医学は常に進歩しています。私達は産婦人科医として、先進的な治療を本邦に導入、あるいは研究開発したいと思います。現在行っている産婦人科医療への時間生物学の応用を目指した基礎・臨床研究等を展開し、患者さんに寄り添った先進医療や高度な医療技術を提供できるよう、チーム一丸となって診療にあたっております。
最後に、生殖医療は従来、女性の患者さんを中心に考えられてきましたが、不妊症の原因の約50%は男性因子によります。私たちは、男性の生殖医療についてもっと広く知っていただきたいと考えています。加齢によって男性の生殖機能も低下します。不妊症でお悩みの方は、ぜひパートナーと一緒にご相談ください。
本治療に関する問い合わせ
お問い合わせ先 | 東京医科大学病院 産科・婦人科 リプロダクションセンター |
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TEL | 03-3342-6111(病院代表) 受診を希望される方は、産科・婦人科外来へご連絡ください。 |
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