肝がんの治療

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 一般的には、肝がんの治療の方向性の基準となる「肝癌診療ガイドライン」の治療アルゴリズムに基づいて、治療方針を決定します。ただし、すべての患者さんに同じように治療ができるわけではありません。患者さんの年齢、体力、既往症の状況等を考慮して治療方法を相談しながら決定します。また、他の医療機関にセカンドオピニオンを希望される場合は担当医にお伝えください。

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肝切除術

 がんのできた部位を手術で取り除くのが「肝切除術」です。腫瘍を確実に切除できる治療法ですが、肝臓の障害度やがんの大きさ、数に応じて肝切除術が望ましいか判断されます。
 肝臓の手術は、がんの周りの肝臓を部分的に切除する肝部分切除や、肝臓の血流に沿った区域ごとに切除する系統的肝切除術:肝亜区域切除術(S1-8)、肝区域切除術(外側区域切除術、前区域切除術、後区域切除術)、肝葉切除術(肝右葉切除術、肝左葉切除術)があります。これらの術式は、腫瘍の位置、大きさや肝臓の機能検査によって決定されます。また、がんの数や大きさによっては、肝切除後に穿刺局所療法や塞栓術を加えることもあります。
 開腹での肝切除の場合は、非常に大きな創が必要となりますが、腹腔鏡下肝切除術では小さな創で手術を行うことができ早期回復が期待できます。根治性、確実性が担保される場合は腹腔鏡下肝切除術が適応となります。

図6

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穿刺局所療法

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●超音波ガイド下またはCTガイド下、腹腔鏡下、開腹下に電極針を腫瘍部に到達させ、ラジオ波を照射することで、腫瘍部を焼灼壊死させる。
●電極が熊手状に広がり、1回の照射で焼ける範囲が広い。
●RFAと同様にして電極針を刺し、マイクロ波を照射す方法。
●RFAより広範囲の治療が短時間で可能であり、近年普及しつつある。

 「穿刺局所療法」とは、おなかの上から画像機器(超音波、CT)でがんの位置を観察しながら、肝臓内のがんに向けて治療用の針を刺します。特に超音波で描出が難しい肝がんは、超音波の画像とMRIやCT画像を同期させて表示するフュージョンイメージを用いて正確に治療を行っています(図8)。穿刺局所療法には大きく分けて2つの方法があります:①ラジオ波熱凝固療法(RFA)、②マイクロ波熱凝固療法(MWA)。ラジオ波とは、AMラジオで使われている波長帯の高周波のことで、電磁波を流すと電極の周りに高熱を発生します(抵抗加熱)。その熱でがん組織を焼き固めるのがラジオ波熱凝固療法です。
 一方、マイクロ波とは、ラジオ波よりもさらに波長の短い波長の電磁波(マイクロ波)を治療用の針(アンテナ)から照射し、アンテナの周りに高熱を発生します(誘電加熱)。マイクロ波の方が短時間に広い範囲の治療が行えますが、針がラジオ波よりも太いといった欠点もあります。このように、ラジオ波やマイクロ波はがんを焼き固める力は大変強力ですが、開腹して行う切除術と比べると体への負担は少なく、入院期間も1週間程度と短くて済みます。そのため、高齢者や体力が低下している患者さんにも行うことができます。がんが再発した場合も、この治療は可能です。
 ただし、針を刺す場所が少しずれると、大出血したり、健康な組織を焼いてしまう可能性もあります。最も危険なのは、誤って胆管を焼いてしまい、そのために胆管がつまり、胆汁がたまってしまうことがあります(胆汁がたまると肝機能が悪くなります)。そこで東京医科大学病院では熱の力ではなく電気パルスの力でがんを破壊する不可逆電気穿孔法(IRE)という治療法を導入し治療を行っています。IREではRFAやMWAと比べ胆管に対する影響は軽微です。ただし、IREは「先進医療」に分類される治療法であるため、健康保険が適応されていません。(2020年9月現在)

図8 フュージョンイメージ

超音波単独では肝がんの描出は困難ですが、MRIとのフュージョンを行うことで肝がんの位置が同定することができます。穿刺局所治療ではフュージョンイメージを用いてより正確な治療を行うことができます。
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肝動脈(化学)塞栓療法

 肝臓に血液を送り込むルートは2つあります。通常の動脈である肝動脈と、食事から摂取した栄養などを運ぶ肝臓独自の血管である門脈です。この2つのルートがあること利用してがんを壊死させるのが「塞栓療法」です。
 肝臓の細胞は必要とする酸素や栄養素の約70~80%を、門脈から流れてくる血液から受け取っています。ところががん細胞だけは、ほぼ100%を肝動脈から得ています。そこで、がん細胞に血液を供給している肝動脈を塞ぎ、栄養と酸素を送れられないようにします。がん細胞をいわば兵糧攻めにして壊死させるわけです。がん以外の正常な細胞は、門脈を流れる血液から栄養などを受け取るので、栄養不足になる心配はありません。
 塞栓療法の治療効果は、前述した治療法に比べそれほど高いわけではありませんが、ほかの治療法を行えない場合にも治療できるのが大きな利点です。肝がんは、がんの個数が多くなると切除や焼き切ることが困難になります。そのため、がんが4ヶ所以上ある場合は、この治療法が選択されます。また、3cm以上の大きながんの治療でも可能であり、入院期間は1週間程度です。
 この治療は、まず足の付け根の動脈から、透視下で(X線を見ながら)カテーテル(細い管)をがんの近くまで送り込みます。そして、抗がん剤を混ぜた「リピオドール」という造影剤や抗がん剤を吸収した「ビーズ」と呼ばれる塞栓物質を、がんが栄養を摂っている血管(肝動脈)からゆっくり流し込みます。塞栓療法ではがんの栄養血管を正確に同定することが最も重要です。特に肝がんは複数の血管で栄養されています。そこで当院では、正確な塞栓術を行うために塞栓術支援ソフトウエア(EmboGuide™)を使用し、より正確な治療を心掛けています(図10)。

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図10 塞栓支援ソフトウエア

通常の血管造影画像(左:図中の円は腫瘍の位置)では肝がんの栄養血管を同定することが困難な場合があります。塞栓術支援ソフトウエア(EmboGuideTM)(右)を使用することで、腫瘍の栄養血管が画像上に表示され同定が容易になります。
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その他の治療法

1薬物療法

 がんが転移したり、胆管や門脈などに入り込んでいる場合、がん細胞が血液などを介して全身に散らばっている可能性があります。そのようなときには抗癌剤を中心とした薬物療法が行われます。また、がんが肝臓内にとどまっている状態でも、塞栓術の効果が不良の場合には薬物治療を行うこともあります。現在第1選択で使用されている薬剤は、「レンバチニブ」と「ソラフェニブ」です。第2選択で使用される薬剤は、「レゴラフェニブ」と「ラムシルマブ(AFPが400np/ml以上という条件あり)」です。今後も様々な薬剤が保険適応となる可能性があります。

2肝移植

 どのような肝臓においても、根本的に患者さんの命を救える治療法は、健康な肝臓の移植です。日本では主に、健康な人の肝臓の一部を移植する生体肝移植が行われています。
 ほかに治療の手立てもなく、このままだと余命1年以内と考えられる患者さんが肝移植の対象となります。肝がんの場合は、「転移がなく、肝臓内の血管にがんが入り込んでいない」かつ「5cm以内のがんが1個、または3cm以内のがんが3個以内」ないし「5cm以内のがんが5個以内で、AFPが500ng/ml以下」であれば、肝移植が検討されます。

3放射線治療

 通常の放射線では、がん以外の部分も影響を受けてしまいますが、重粒子線や陽子線を利用した治療法なら、がんだけにピンポイントで照射することができます。しかし、重粒子線や陽子線治療は「先進医療」に分類される治療法であるため、健康保険が適用されていません。

4緩和ケア

 がんに対する直接的な治療が難しい場合は、がん治療と並行して、症状を和らげ、生活の質を高める治療が行われます。多くのがんでは、末期に至ると激しい痛みがあるため、その痛みを緩和することが治療の中心となりますが、肝がんでは比較的痛みは強くありません。むしろ主に腹水などの症状のコントロールを行います。

最終更新日:2020年9月30日