肝がんの基礎知識

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肝がんとは?

 肝臓にできるがんには、肝細胞ががん化したものと、肝臓内にある胆管の細胞ががん化したものとがあります。肝がんのほとんどが肝細胞がんなので、ここでは肝細胞がんについて述べます。

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原因

 肝臓の病気の中で、肝がんの危険性が特に高いのは、C型やB型のウイルス性肝炎や肝硬変がある人です。そのほか、高齢者、男性、糖尿病の人、お酒をよく飲む人、肥満の人、AST・ALT値の高い人、血小板数の少ない人なども、危険性が高くなっています。これらに該当する人は定期的な肝がん検査が必要です。

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症状

 肝がんは自覚症状がほとんどないまま進行します。原因となる肝炎も肝硬変も自覚症状がないため、大きくなったがんのために痛みが生じて受診した時には、すでに末期の状態まで進行していることが少なくありません。

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患者数

 日本人のがんの死因は、1位から、肺がん、大腸がん、胃がん、すい臓がんと続き、5位に肝がんが入っています。かつては4位でしたが、治療法が進歩したことで5位に下がりました。(厚生労働省大臣官房統計情報部(編):平成29年(2017年)人口動態統計.厚生労働省,2018)
 日本の場合、肝がんの原因のほとんどがウイルス性肝炎だという特徴があります。特に2000年頃までは、C型肝炎が75%、B型肝炎が15%程度と、両方で90%以上を占めていました。しかし近年は、ウイルス性肝炎の治療法の進歩により、他の原因による肝がんが増えてきています。

肝がんの検査と診断

 ウイルス性肝炎などの肝臓病がある人はもちろん、血液検査で肝機能関連に異常値があったり、肝炎ウイルスの感染が判明した場合は、肝がんの有無を調べる検査を受けることが必要です。ウイルス性肝炎がある場合は、3~4カ月に1回、それ以外の場合は半年に1回ほど、以下のような検査を受けます。

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血液検査

 がんが体内にあると、がん細胞自身や、がんに対する体の反応で作られたりする物質が血液中に放出されます。この物質は、がんができた臓器やがんの種類によって異なるため、血液中の量を調べると特定のがんの有無を推測することができます。これを「腫瘍マーカー検査」といいます。肝がんの腫瘍マーカー検査にはAFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3分画の3つの項目があります。肝がんがあった場合、どの治療法を選択するかは肝機能の状態が関係するため、血液検査で肝機能も調べます。

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画像検査

 腫瘍マーカーだけでは、肝がんがあると断定することはできません。併せて画像検査を行い、肝がんの確定診断とがんの進行度を調べます。
 まず、最初に行う画像検査は、患者さんの負担が少ない超音波による検査です。診断装置の進歩により、現在では1cm程度の小さながんも発見することができます(図1)。がんの診断をより正確に行い、よりがんを見つけやすくするために、ソナゾイドと呼ばれるマイクロバブルでできた造影剤を使用した造影超音波検査もあります(図2)。(マイクロバブルとは、ソナゾイドのマイクロバブルは脂質膜に覆われた径3μm(赤血球の大きさは7-8μm)程度の気泡です。
 そのため、最終的な排泄経路は呼気であるため、腎障害のある患者でも安全に使用することができます。しかし、肝臓には超音波では観察しにくい部位があります。そのため年に1度はCT検査やMRI検査を受けておく必要があります。また、肝がんの診断精度が最も高い検査法として「EOBプリモビスト」という造影剤を使ったMRIもあります(図3)。

図1 腹部超音波検査

肝内に径1㎝程度の肝がん(矢印)を認めます。

図2 ソナゾイド造影超音波検査

通常の超音波検査で描出が困難であっても、ソナゾイドを使用することで明瞭に肝がん(矢印)描出することが可能です。

図3 EOB-MRI

肝内に径1cm程度の肝がん(矢印)が描出されています。この肝がんは超音波やCTでは描出が困難でした。

肝がんの治療を決める因子

 どのように治療法が選ばれるかは、日本肝臓学会が出版している「肝癌診療ガイドライン」の治療アルゴリズムに従い決定されます(治療アルゴリズム:図4)。もちろん、最終的にはそれぞれの患者さんの状況を考慮して決定します。以下にその概要を述べます。

図4 治療アルゴリズム

 肝がんの代表的な治療法は、がんを切除する肝切除術、がんを焼き切る穿刺局所療法(ラジオ波熱凝固療法:RFA、マイクロ波熱凝固療法:MWA)、がんへの栄養供給を止める塞栓療法の3つです。ほかに、抗がん剤等による薬物療法や放射線療法などがあります。これらの中からどの治療法を選ぶかの判断基準のひとつは、肝機能の状態です。  まず、肝機能が十分に保たれているかどうかによって肝切除術が行えるかどうかが決まります。次に注目するのはがんの進行具合で、がんの数とがんの大きさです(進行度分類:図5)。肝がんは、1か所ではなく、複数の場所にできている場合が少なくないためです。

図5 進行度分類

 肝臓以外にがんが転移をしている場合もあります。転移があると、がん細胞が全身に散らばっている可能性があります。その場合には肝機能が良い状態に保たれていれば、抗がん剤を中心とした薬物療法を用いて全身のがんに対処します。がんが転移していなくても、塞栓療法の治療効果が乏しい場合、薬物療法が選択されることもあります。

最終更新日:2020年2月10日

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