DOCTOR`S INTERVIEW

子どもの「味方」、保護者の「伴走者」として、
「こどものこころ診療部門」でご家族の心をケア

メンタルヘルス科 主任教授

桝屋 二郎(ますや じろう)

こんな方に読んでほしい

  • 子どもの育てにくさや心の傷に対し、接し方や相談場所に迷われている保護者の方
  • 子どもの心の不調や発達障害に、「自分の育て方が悪いのでは」と悩まれている保護者の方
  • 子どもにメンタルヘルス科を受診させるべきかどうか悩んでいる保護者の方

専門的な診療と丁寧な対話から、
学校や地域とも連携して子どもと親の心をケアする

発達障害やいじめ、不登校など、現代の子どもが抱える心の悩みは多様化しており、医学的な専門知見に加え、一人ひとりの背景を深く汲み取る視点が欠かせません。東京医科大学病院 メンタルヘルス科(主任教授 桝屋 二郎)では、子どもの発達障害の診療から、つらい経験(逆境体験)への心のケアにいたるまで、専門チームによる丁寧な診療を行っています。

「子どもたちの力になりたい」が原動力

私の専門は児童精神医学です。「心」という分野に惹かれたこと、そして何より、もともと子どもが好きで、「子どもたちの力になりたい」と心から願ったことが、この道を歩むきっかけでした。

1998年に東京医科大学を卒業し、多くの患者さんと向き合う中で、子どもたちが置かれている過酷な現実に何度も直面しました。あるとき、私が担当していた子どもが、非行をきっかけに少年院に入ることになりました。そこで私は少年院の先生方と勉強会を立ち上げ、対話を深める中で、子どもが非行に走る裏側にある複雑な背景や心の葛藤を目の当たりにしました。こうした状況にある子どもたちを支援したいと決意し、2007年に大学を辞めて医療少年院の医師として赴任しました。その後、2011年の東日本大震災をきっかけに福島県の支援に携わり、2014年には福島大学で子どもたちのメンタルヘルスを支える事業を立ち上げました。

こうした地域や現場での経験を経て、2019年に東京医科大学病院にて「こどものこころ診療部門」をスタートしています。

子どもの「味方」、保護者の「伴走者」として、
困りごとを「丁寧に聴く」

当科を受診する子どもたちは、いじめや虐待といった問題で深く傷ついているだけでなく、「学校に行くのがつらい」「苦しくて自分を傷つけてしまう」「消えてしまいたい気持ちになる」といった、切実な悩みを抱えています。 そこで、受診される子どもと保護者の方に対して、私たちがまず行うのは、今抱えている困りごとを丁寧に伺い、どうすれば状況が良くなるかを一緒に探ることです。

その際、子どもに対しては「私はあなたの味方なんだよ」という姿勢をはっきりと示し、理解してもらうことを何よりも大切にしています。もし子ども本人が、目の前にいる私を「学校や親の言い分を押し付ける大人」だと感じてしまったら、そこから良い治療は生まれないからです。

また、同時に保護者の方の気持ちに寄り添うことも大切にしています。実際、子どものために一生懸命努力されているにも関わらず、「自分の育て方が悪かったのではないか」とご自分を責める保護者の方も多くいらっしゃいます。特に発達障害については、かつては親の養育が原因だという大きな誤解がありましたが、実際には子どもの脳の特性から生じているものです。親の責任ではなく、本人の脳の特性から来る生きづらさをどう助けていくか、という視点が大切だと考えています。

大学病院だからこそ体と心の両面から診療できる
「こどものこころ診療部門」

当院の「こどものこころ診療部門」では、中学生までの子どもを対象に、小児科・思春期科と密接に連携し、身体と心の両面から総合的に診察しています。心理・発達検査で正確に状態をとらえることはもちろん、ご本人やご家族と一緒に治療や支援を考えていきます。

当院では、一人あたり20〜30分程度の枠を確保し、医師との対話を通じて心理療法と具体的なアドバイスを一体的に行っています。子どもの診療は「言葉のやりとり」が基本です。お薬による治療も選択肢の一つですが、子どもに使える薬には限りがあります。そのため、メリットとデメリットを丁寧にご説明し、ご本人と保護者の方が心から納得し、希望された場合にのみ薬を処方しています。

また、必要に応じて、深層心理を探るための絵や作文を用いた検査、情報の受け取り方の得意・不得意を調べる知能検査(発達検査)なども実施します。さらに、身体的な要因がないかを確認するため、脳血流の画像検査や脳波、血液検査なども検討し、多角的な視点で子どもの状態を把握します。

メンタルヘルス科の受診に対して、「一度かかると一生薬を飲み続けなければならないのでは?」といった不安や抵抗感を持つ方もいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。適切な治療や環境調整によって、ご家族の気持ちにも余裕が生まれると、子どもは驚くほど伸び伸びと生活し始め、学校生活でも良い変化が見えてくることが多いです。より深刻な状況になる前に、一度お話しを聞かせてください。

子どもの「日常」を整えるため、学校や地域と積極的に連携

適切な支援の第一歩は、背景にある発達の特性や、心の奥にある傷を正確にとらえることにあるため、診察ではご本人やご家族のお話を丁寧に伺うのはもちろん、学校や塾での様子も含めて生活全体を理解するよう努めています。

実際に、子どもの「日常」を整えるため、私たちは学校やかかりつけ医、子ども家庭支援センター、児童相談所といった各機関と積極的に手を取り合っています。 特に、生活の大半を過ごす学校との連携は非常に重要です。ストレスの原因が学校にある場合、たとえ治療で一時的に良くなっても、環境が変わらなければ再びつらくなってしまいます。学校に対しても「今はどのような配慮が必要か」「どのような接し方を避けてほしいか」といった具体的な提案を届け、現場とのすり合わせを丁寧に行っています。

このように、医療としてのケアを担うだけでなく、時にはご家族や学校で話し合うための指針を示したり、行政への相談を後押ししたりするアドバイザーとしての役割も大切にしています。

「こどものこころ診療部門」では一人ひとりの時間を大切にするため、完全予約制をとっています。かかりつけの小児科などの医療機関や、スクールカウンセラー、産業医からの紹介状をお持ちいただくと、スムーズにより確かな診療へと繋げることができます。なお、高校生以上の方は、抱える問題が成人に近くなるため成人外来で診療を行っています。成長に合わせて適切な環境でサポートを継続できる体制を整えています。

世界的に認められている「行動療法的ペアレントトレーニング」で
親子に笑顔を

現在はまだ保険外診療ですが、当院では、「行動療法的ペアレントトレーニング」も行っています。これは、発達障害の一つであるADHD(注意欠如多動症)を持つ子どもへの支援として、その効果が世界的に認められている医学的なプログラムで、子どもの「行動」に焦点を当て、どのように接すれば良い変化を引き出せるかをグループで学んでいくものです。

トレーニングの第一歩は、脳の特性による子どもの育てにくさについて、保護者の方自身が理解を深めることです。彼らはその脳の特性により周りが困るような言動が多く、親がどのように対応すればよいのか途方に暮れていることも多いのです。そこで、このトレーニングを通して、保護者の方が、「子どもの適切なほめ方」や「子どもに伝わりやすい指示の出し方」を具体的に学び、家庭内での衝突を減らしていくことを目指します。

また、同じ悩みを持つ親御さん同士で思いを分かち合い、支え合える貴重な機会にもなるため、実際に参加されたご家庭からは、「子どもの良いところに気づいてほめられるようになり、子どもの表情が明るくなった」「親自身のイライラが減り、同じ境遇の親御さんと話すことで救われた」といった、前向きな声を数多くいただいています。保護者の方が心に余裕を持てることで、子どもも安定し、良い循環が生まれます。

医療だけでは守れない、子どもの健やかな未来のため、
「子どもいじめ防止学会」を立ち上げ

私は、いじめや災害、非行、虐待といった子ども時代のつらい体験「小児期逆境体験(ACEs)」を専門として、診療と研究の両面から向き合ってきました。研究により、こうした逆境体験が成人後の心身の健康や、人生の歩みに大きな影響を及ぼすことがわかってきました。2025年に日本で行われた大規模な調査では、約75%の方が1つ以上、約15%の方が4つ以上の逆境体験を抱えているという結果が出ています。そしてこの逆境体験は、早めに適切なケアを行うことが何より大切だと考えています。

いじめのキズは子どもの心と体に大きく残り、大人になってからも続くほど深刻な悪影響を及ぼします。それを防ぎ、癒すには、医療だけでなく、教育、心理、行政、司法など多分野の専門家が手を取り合う必要があります。しかし、これまでそれらの専門家が一堂に会して議論できる場はほとんどありませんでした。

そこで私たちは、関係する分野の研究者や支援者の皆さんと協力し、クラウドファンディングで募った多くのご支援を糧に「子どもいじめ防止学会」を立ち上げました。2026年7月には、当院にて第2回大会を開催する予定です。さまざまな職種のプロフェッショナルが知恵を出し合うことで、子どもたちが安心して過ごせる社会の実現に貢献できればと考えています。

SOSが出せない子どもの小さな変化や不調にアンテナを

当科を受診する子どものほとんどは、自分からSOSを出せずに一人で苦しんでいました。しかし、日常のちょっとした変化の中に、実は精神的な不調が隠れている場合があります。例えば、周囲が気づきやすい変化として以下のようなものがあります。

急に成績が落ちた、あるいは以前のように勉強に集中できなくなった

ささいなことでイライラしたり、攻撃的な態度が増えたりした

急に自分のことを話してくれなくなった

朝、なかなか起きられなくなった

「学校へ行きたくない」という登校しぶりが増えた

また、心のつらさが「体の症状」として現れることも少なくありません。原因不明の体調不良で小児科や皮膚科を受診し、そこから当科を紹介されて心のケアが始まるケースも多くあります。子どもの心を守るためには、周囲がこうした小さな変化や不調を見逃さないアンテナを持つことが大切です。

子育てに悩んでいる保護者の方の心に寄り添う治療を

いま、育児や家事、仕事に追われる毎日の中で、心に余裕を失い、子どもに対する今までの治療や支援がうまくいかず、自信をなくし、絶望的な気持ちでいらっしゃる保護者の方もいるかもしれません。しかし、どんなに困難に見える状況でも、改善するための方法は何かしら見つかるものです。
私たちと一緒に、子どもにとって、そしてご家族にとってより良い方法を、じっくりと探していきましょう。どうぞ遠慮なさらず、最初の一歩を踏み出してみてください。

本治療に関する問い合わせ

お問い合わせ先 東京医科大学病院 メンタルヘルス科
TEL 03-3342-6111 (病院代表)
受診を希望される方は、「子どものこころ診療部門」(メンタルヘルス科外来内)へご連絡ください。
※受診には、他医療機関発行の紹介状をお持ちください。
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