舌がんの治療

口腔がんの治療は、手術療法、放射線療法、化学療法の3つの柱からなっており、患者さんの年齢、全身状態や社会状況などを考慮したうえで、がんの進行状況や組織系に応じて選択していきます。基本的には、切除が可能な病変であれば、まずは手術療法が検討されることが多いです。当院では、2010年より歯科口腔外科医・耳鼻咽喉科頭頸部外科医・放射線科医・形成外科医・病理診断医などの関連各科で連携し、一つの症例を多角的に協議し患者さん一人一人にあった最適な治療プランを立案しています(毎週頭頸部キャンサーボードが開催されています)。また、患者さんが十分に病態や治療法を理解したうえで、納得して治療を受けていただける様に、他施設へのセカンドオピニオンをお勧めする場合があります。

1

手術療法

舌の切除術式は、舌部分切除、舌可動部半側切除、舌可動部(亜)全摘手術、舌半側切除術、舌(亜)全摘出術に分類されます。がんの大きさが比較的小さく、かつ頸部のリンパ節に転移がない初期の場合には、口内法による切除(舌部分切除)が行われます。早期がん(ステージⅠおよびⅡ)に対する予防的頸部郭清術(リンパ節郭清)は、原発巣の深部浸潤が高度な症例に対して行われることが多く、その適応基準については一定の見解が未だ得られていません。当科では、患者さん個々の生活背景等も考慮し、予防的頸部郭清の有無を決定しております。また、舌の切除量に応じて再建手術を併術します。これは、手術後の顔貌の変化や摂食嚥下機能の低下、発音や会話の障害をできるだけ最小限にとどめるために行います。半側切除程度であれば、薄くしなやかな皮弁(前腕皮弁や前外側大腿皮弁)が選択され、亜全摘以上であれば、容積の大きな皮弁(腹直筋皮弁)を用います。マイクロサージェリーと呼ばれる微細血管吻合を必要とする手術になりますので、当院では形成外科医とともに再建手術を行っています。

a)舌部分切除術  b)可動部舌半側切除
舌半側切除術
舌可動部(亜)全摘術
舌(亜)全摘術
可動部舌半側切除後に前外側大腿皮弁(太もも)による舌の再建術を行った症例
(向かって左側が再建した舌)
2

放射線治療

組織内照射は、主にT1、T2症例や表在性のT3症例に対して適応とされていますが、治療できる施設が限られているため、選択されることは少ないのが現状です。また術後の再発や転移が高いとされる症例での補助治療や、切除不能病変に対して放射線治療が行われます。近年では、放射線治療によって生ずる副作用の軽減を図るために、IMRT(強度変調放射線治療)等、より高精度な放射線治療技術も使用しています。

3

薬物療法

進行がん、また再発や転移のリスクが高いとされるものに対してプラチナ製剤を含む化学療法が用いられることがあります。近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤、さらには光免疫治療の出現により、生活の質(QOL:Quality of Life)を高く維持したままで病気と向き合うことができるようになってきました。

4

補助的治療

口腔がんの治療医は、口の中の隅々を知り尽くした、いわば「お口の中の専門家」です。「手術はできたけど、ご飯が食べられない・・・」「がんは治ったのに、外出できない・・・」といった状況に陥らないために、あらゆる専門的アプローチを駆使して機能回復に努めています。例えば、舌がん治療に際して、顎骨の合併切除を余儀なくされた方に対しては、顎義歯を用いて咬合機能を再建し、場合によっては顎骨の再建や歯科インプラント治療により咬合機能を回復させることもあります。また嚥下機能が低下してしまった患者さんには、舌接触補助床(PAP)とよばれる装置を作成することで、機能回復を図ることが可能です。このように、当院ではがんの治療にとどまらず、耳鼻咽喉科・頭頸部外科と歯科口腔外科・矯正歯科が連携して、治療後の機能回復や口腔内の環境改善にも力を入れています。また、術後の摂食嚥下機能の評価・リハビリにおいては、院内の摂食嚥下専門チームと共に患者さんのQOL向上に努めています。

5

経過観察

術後(治療後)は、再発や転移が生じないかを、慎重に観察しなければなりません。がんの再発や転移を、速やかに検知し治療するためには、計画的で質の高い経過観察が重要です。治療後最初の1年は、特に注意が必要な期間となりますので、毎月の診察と頸部超音波検査に加え、3~4か月に1度のCT検査等でフォローしていきます。治療後2年目には2か月に1度、3年目では3か月に1度といったように、徐々に診察の間隔を広げますが、各種画像検査を適切に行うことが肝要です。一般的には最低でも5年間は経過観察を行いますが、ほとんどの患者さんがそれ以降も定期健診にいらっしゃいます。

6

治療アルゴリズム

7

おわりに

舌がんは、早期発見・早期治療がなによりも重要です。もちろん進行してしまった場合でも、きちんとした診断と治療計画を立てれば十分に社会復帰が可能です。治療途中の歯は決して放置せず、定期的に歯科医院を受診するなどして、きれいな口腔環境を保つことが大事です。もしも2週間以上治らない口内炎がある場合や、できものが気になる際には、速やかに耳鼻咽喉科や歯科医院を受診してチェックしてもらいましょう。

【参考文献】
・頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版 日本頭頸部癌学会編
・科学的根拠に基づく
 口腔癌診療ガイドライン 2019年版 日本口腔腫瘍学会・日本口腔外科学会編

最終更新日:2023年2月10日

Page Top