舌がんの基礎知識

1

舌がんとは?

口の中にできたがんのことを、総じて口腔がんといいますが、舌がんとは一般的に、舌の前方2/3(口を大きく開けたときに見える範囲)に生じたがんのことを指します。口腔がんの中では約60%が舌がんと言われています。男女比は約3:2と男性に多く、発症年齢は60代に多いとされていますが、20~30代の若年者にも時々見られますので、注意が必要です。舌は、味を感じたり、食べ物をのどに送り込んだり、さらには人と会話したりといった、我々が生きていくうえでもっとも大切な「摂食・嚥下」や「構音」といった機能に大きくかかわります。したがって、質の高い生活を生涯にわたって送るためには、早期発見が重要です。舌は自分で鏡を用いて見ることができるため、一般的には比較的早期に発見されることが多いとされていますが、一方では進行した状態で受診される方もいらっしゃいます。早い段階からリンパ節への転移をきたし、きわめて急速に進行するケースもありますので、2週間を経過しても治らない口内炎や、口内炎の周囲に硬いできものが触れる場合は、速やかに医療機関(かかりつけの歯科医院や耳鼻咽喉科)を受診されることをお勧めします。

2

原因

現在のところ、舌がんのはっきりとした原因は明らかではありませんが、危険因子として喫煙や飲酒による化学的な慢性刺激に加えて、虫歯や合わない詰め物、極端に傾いた歯などによる機械的な慢性刺激、さらには口の中の不衛生な状態などが挙げられます。また口の中にできる粘膜病変が経年により癌化することもあります。特に、白板症や紅板症は10%程度の癌化率を有しているとされ、潜在的悪性疾患として慎重な経過観察が推奨されています。

3

症状

舌がんは舌の先端や中央部にできることはまれで、多くは側面(側縁部といいます)に生じます。早期では触ってもわからないことや、痛みがない場合もあります。たまたま受診した歯科医院で指摘されて見つかることも少なくありません。進行に伴って周囲が固くなり(硬結といいます)潰瘍(えぐれた感じ)になったり、時には外側に膨らんできて、持続する痛みや出血を生じるようになります。
特に下記のような症状がある場合、かかりつけの歯科医院や耳鼻咽喉科に相談することをお勧めします。

〇舌に腫れや痛み、しこりがある
〇口内炎が2週間以上経過しても治らない
〇舌に白斑、または紅斑がある
〇舌の側縁に虫歯の詰め物や入れ歯が当たってこすれている

潰瘍を伴い内側にえぐれて大きくなるタイプ(内向型)
潰瘍を伴い内側にえぐれて大きくなるタイプ(内向型)
外側に大きくなるタイプ(外向型)
外側に大きくなるタイプ(外向型)
白板症が癌化したタイプ
白板症が癌化したタイプ
潰瘍やびらんがないため口内炎と思われていたケース
潰瘍やびらんがないため口内炎と思われていたケース
4

患者数

口腔がんの患者数はわが国において増加傾向にあり、毎年3000人を超える方が口腔がんによって命を落としています。2015年における口腔がんの患者数は7800人にも上ります。(データ出典元:口腔癌診療ガイドライン 2019年版 金原出版株式会社)

検査と診断

1

口腔がん検診

一般的に口腔がんは自身でのセルフチェックに加えて、耳鼻咽喉科や歯科医院の受診、また行政の口腔がん検診を受けることによって早期発見が可能です。口腔がんはほかのがんに比べて発見しやすく、早期発見であれば5年生存率は90%以上と、十分に完治が可能です。また、舌がんの原因の中で、明らかに傾いた歯や合わない入れ歯による、長期間の機械的刺激が挙げられます。定期的な歯科医院の受診が、舌がんをはじめとして、口腔がんの早期発見につながります。日本歯科医師会や口腔外科学会が主導して、さまざまな地域で口腔がん検診が行われています。

2

舌がん検査の種類

血液検査・細胞診・病理組織診・パノラマX線写真・CT・MRI・PET・超音波検査などを用いて、組織の確定、原発巣の精査、リンパ節転移精査、全身転移精査を行います。

※検査の順番は、状況により前後することがあります。

舌がんの治療を決める因子

舌がんの治療を決めるにあたっては、がんの種類、がんの進行度(病期、ステージ)、身体の状態を評価し、「頭頸部癌診療ガイドライン」および「口腔癌診療ガイドライン」に基づいて科学的根拠の高い、かつ患者さんにとって有益な治療が行わなければなりません。

舌がんの種類

口腔がんのほとんどは、口の中の粘膜表面から発生する扁平上皮がんとよばれるものですが、まれに肉腫や唾液腺がんが発生することもあります。組織系によって治療法が異なる場合がありますので、ここでは扁平上皮がんを対象として話を進めていきます。

舌がんの病期

(T分類)

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Tis 上皮内がん
T1 最大径が 2cm 以下かつ深達度が 5mm 以下の腫瘍
T1b 充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下
T1c 充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下
T2 最大径が 2cm 以下かつ深達度が 5mm をこえる腫瘍,または最大径が 2cm をこえるが 4cm 以下でかつ深達度が 10mm 以下の腫瘍
T3 最大径が 2cm をこえるが 4cm 以下でかつ深達度が 10mm をこえる腫瘍,または最大径が 4cm をこえ,かつ深達度が 10mm 以下の腫瘍
T4a (口腔)最大径が 4cm をこえ,かつ深達度が 10mm をこえる腫瘍,または下顎もしくは上顎の 骨皮質を貫通するか上顎洞に浸潤する腫瘍,または顔面皮膚に浸潤する腫瘍*
T4b (口唇および口腔)咀嚼筋間隙,翼状突起,または頭蓋底に浸潤する腫瘍,または内頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍

【注】
*歯肉を原発巣とし、骨および歯槽のみに表在性びらんが認められる症例はT4aとしない。

(N分類)

NX 領域リンパ節の評価が不可能
N0 領域リンパ節転移なし
N1 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3㎝以下かつ節外浸潤なし
N2 以下に示す転移
N2a 同側の単発リンパ節転移で最大径が3㎝をこえるが6㎝以下かつ節外浸潤なし
N2b 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6㎝以下かつ節外浸潤なし
N2c 両側または対側のリンパ節転移で最大径が6㎝以下かつ節外浸潤なし
N3a 最大径が6㎝をこえるリンパ節転移で節外浸潤なし
N3b 単発性または多発性リンパ節転移で臨床的節外浸潤*あり

【注】
*皮膚浸潤か、下層の筋肉もしくは隣接構造に強い固着や結合を示す軟部組織の浸潤がある場合、または神経浸潤の臨床的症状がある場合は、臨床的節外浸潤として分類する。
正中リンパ節は同側リンパ節である。

(M分類)

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

(病期分類)

0期 Tis N0 M0
Ⅰ期 T1 N0 M0
Ⅱ期 T2 N0 M0
Ⅲ期 T3
T1, T2, T3
N0
N1
M0
M0
ⅣA期 T4a
T1, T2, T3, T4a
N0, N1
N2
M0
M0
ⅣB期 Tに関係なく
T4b
N3
Nに関係なく
M0
M0
ⅣC期 Tに関係なく Nに関係なく M1

最終更新日:2023年2月10日

Page Top