肺がんの基礎知識

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肺がんとは?

肺がんとは肺にできるがんのことで、近年、患者さんの数が増加しています。
最初に、肺がんではどのような原因があるのか、どんな症状が出現するのか知りましょう。

肺の機能と構造

肺の重要な動きは、呼吸によって大気中の酸素を血液中に取り込んで、二酸化炭素を逆に体外に排出することです。
空気は気管を通り、左右の気管支に分かれ、20回以上枝分かれし肺胞にたどり着きます。肺胞では酸素が毛細血管の血液中を流れる赤血球に受け渡され、二酸化炭素を排出します。

肺胞がガス交換する仕組み
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原因

喫煙は肺がんの発生率を4から5倍にすると言われていて、その他にアスベストなどが原因になることが知られています。

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症状

症状として見られるのは、咳、呼吸困難(息切れ、息苦しさ)、痰、血痰(血の混じった痰)などです。しかし、肺がんは初期段階では無症状のことが多く、身体に異変を感じた場合には進行が進んでいるケースも少なくありません。このような症状が継続する時は医療機関の受診をおすすめします。

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患者数

厚生労働省が2021年に発表した人口動態統計によると、がんによる死亡者数は年間約39万人ですが、
その中で肺がんは多く約7万人となっています。男性の肺がんによる死亡率は、人口10万人あたり89人となり、高く。女性では、大腸がんに次いで2位で、人口10万人あたり36人です。

検査と診断

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肺がん検診

肺がん検診の対象者は40歳以上であり受診間隔は年に1回、主な検診内容は問診、肺X線検査でハイリスク患者の場合は喀痰細胞診(対象者は、50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人。)などがあります。一次検診で「異常あり」と判定された場合には精密検査(二次検診)を受けるように指導されます。

また人間ドックで胸部異常陰影が発見される場合、他の疾患で医療機関での検査中に偶然に胸部異常陰影を指摘される場合、咳や痰、血痰、呼吸困難といった臨床症状がある場合などが肺がん発見のきっかけになります。

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肺癌検査の種類

検査の種類

1胸部単純X線検査

簡便で広く普及した検査法であり、最初に行われる検査となります。放射線被ばく量も比較的少なく、我が国においても肺がん検診で用いられています。ただし中心型肺癌(太い気管支の病変)や濃度の淡い陰影、肋骨や心臓、横隔膜と重なる陰影などは発見しにくいこともあります。

2胸部CT検査

体の各部位の断面像をそれぞれ描出することで、がんの大きさや性状、周囲の臓器への広がりなど、胸部単純X線よりも多くの情報が得られます。胸部単純X線検査で見つかりにくい陰影も見つけやすく、肺癌を検出する有力な検査方法です。得られた画像から立体構成を表現することも可能です。ただし放射線被ばく量は胸部単純X線よりも多くなることなどは注意を要します。

3喀痰細胞診

非侵襲的な中心型早期肺癌(太い気管支に発生した早期がん)の唯一のスクリーニング法です。通常3日連続で痰を採取し、病変からがん細胞がはがれ落ちて痰に混ざって出てくるのを検出する検査です。1回のみの検査ではがん細胞を発見しにくいため、3回続けて検査を行うことが推奨されています。

4気管支鏡検査

気管支鏡と呼ばれる内視鏡を口または鼻から挿入して気管支の中を観察し、がんが疑われる部位の組織や細胞を採取して調べます。検査前に喉や気管に局所麻酔を十分に行った上で行います。内視鏡で直接見ることができない陰影に対してはX線透視下に経気管支肺生検(TBLB:Transbronchial lung biopsy)を行います。近年では超音波ガイド下に検査を施行することや、ナビゲーションシステムを併用することで診断率は向上する傾向にあります。また超音波を用いることで縦隔リンパ節の生検も気管支鏡下に行うことが可能になりました。頻度はあまり高くないものの出血や肺炎、気胸、局所麻酔中毒などの合併症が起こり得ます。また、喀痰細胞診でがん細胞が検出されたものの、CTや通常の気管支内視鏡で腫瘍が確認できないような太い気管支の上皮内がん(ごく初期の段階の中心型早期肺癌)に対しては自家蛍光気管支内視鏡を使用して病変の観察、生検を行います。

5経皮的肺針生検

気管支鏡検査が難しい場合や行っても診断ができなかった場合に行います。皮膚や胸膜に局所麻酔を施行した後にX線透視やCTガイド下に確認しながら、皮膚から細い針を肺に刺して組織を採取して調べます。数%気胸という合併症が起こる可能性もあり、最近では気管支鏡検査を確定診断のための検査の第一選択とすることが増えています。

6PET検査

FDG(18Fフルオロデオキシグルコース)を静脈注射して撮影するポジトロン断層撮影(PET:positron emission tomography)であり、腫瘍内での糖代謝の亢進を検出して画像化したものです。最近ではPET検査にCTを組み合わせたPET/CTが広く行われており、肺がんは日本における2013年のFDG-PET検査件数の疾患別第一位となっており、全体の約4分の1を占めています。病変へのFDG集積を表すのにSUV(standardized uptake value)という指標があり、全身に均一にFDGが集積した場合をSUV=1として、病変部では最も集積の高い値 SUV maxをよく用います。FDG集積によってリンパ節転移や全身への転移の有無を確認します。脳はブドウ糖代謝が盛んなためPET検査では脳転移の有無は確認できません。がんではなく炎症が起きている場所にも集積する、いわゆる「偽陽性」の場合もあります。

7その他の全身検索検査

肺がんは、脳や骨、肝臓などに転移することがあるので、脳MRIや腹部CT・超音波、骨シンチなどで肺以外の全身検索を行い転移性病変がないかを確認します。

8腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんが存在するときにがん細胞によって異常に産生される特徴的な物質(たんぱく質や酵素)で、がんの種類に応じて多くの種類があり、血液検査により量を測定することでがんの進行の参考とする検査です。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんが体内に存在しても腫瘍マーカーが異常値を示さないこともある一方、がんが存在しなくても異常値を示すこともあります。
肺がんの診断においては補助的な役割として行い、経過観察で用いられることもあります。非小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、腺癌で高値を示すことが多いCEA、SLX(Sialyl Lewis X)、扁平上皮癌で高値を示すことが多いSCC、CYFRA21-1などが用いられており、小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、NSEとproGRPがよく使われます。

肺がんの治療を決める因子

肺がんの治療を決めるにあたり、一番重要なことは「その治療が個々の患者さんの利益になるかどうか」を評価することです。ここでいう「利益」とは、予後(生存期間)の改善であり、生活の質の維持改善です。
その評価の基準となるのが、がんの種類、がんの進行度(病期、ステージ)、体の状態の診断です。そしてその評価に基づいて利益になる治療の方向性を示しているのが「肺癌診療ガイドライン」で、ガイドラインは多くの研究、解析結果に基づいて統計学的に利益になる可能性の高い方法を段階に分けて示しています。
肺癌の治療には有益であるが負担の多いもの、リスクの高いものも多く、実際の診療においては、上記の評価、指針に基づき、個々の患者さんの身体的・精神的背景や生活の背景、そして思いなどを考慮したうえでの「利益」を評価する必要があります。

肺がんの種類

肺がんは約85%を占める非小細胞肺がんと残り15%を占める小細胞がんに分類される。非常細胞がんはさらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分けられる。

組織分類 特徴
非小細胞肺がん 腺がん 症状が出にくい
肺の隅にできやすい
女性の肺がんで多い
扁平上皮がん 喫煙との関連が大きい
太い気管支にできやすい
大細胞がん 増殖が速い
小細胞肺がん 小細胞がん 進行が速い
転移しやすい

肺がんの病期

治療方法を決定するのに必要なのが病期(ステージ)で、がんの大きさ、他の臓器まで広がっていないかなどを調べます。
病期の評価にはTMN分類と呼ばれる分類法を使用します。がんの大きさと周囲組織との関係(T因子)、リンパ節転移の程度(N因子)、遠隔転移(M因子)の3つの因子で決めます。

Tis 上皮内がん、肺野に腫瘍がある場合は充実成分の大きさが0cmかつ病変の大きさが3cm以下
T1 充実成分の大きさが3cm以下、かつ肺または臓側胸膜におおわれ、葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない)
T1mi 微少浸潤性腺がんで充実成分の大きさが0.5cm以下、かつ病変の大きさが3cm以下
T1a 充実成分の大きさが1cm以下で、TisやT1miには相当しない
T1b 充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下
T1c 充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下
T2 充実成分の大きさが3cmを超え5cm以下
または、充実成分の大きさが3cm以下でも以下のいずれかであるもの
・主気管支に及ぶが気管分岐部には及ばない
・臓側胸膜に浸潤がある
・肺門まで連続する部分的または片側全体の無気肺か閉塞性肺炎がある
T2a 充実成分の大きさが3cmを超え4cm以下
T2b 充実成分の大きさが4cmを超え5cm以下
T3 充実成分の大きさが5cmを超え7cm以下
または、充実成分の大きさが5cm以下でも以下のいずれかであるもの
・臓側胸膜、胸壁、横隔神経、心膜のいずれかに直接浸潤がある
・同一の肺葉内で離れたところに腫瘍がある
T4 充実成分の大きさが7cmを超える
または、大きさを問わず横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤がある
または、同側の異なった肺葉内で離れたところに腫瘍がある
N0 所属リンパ節への転移がない
N1 同側の気管支周囲かつ/または同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める
N2 同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移がある
N3 対側縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の鎖骨の上あたりにあるリンパ節への転移がある
M1a 対側肺内の離れたところに腫瘍がある、胸膜または心膜への転移、悪性胸水がある、悪性心嚢水(しんのうすい)がある
M1b 肺以外の一臓器への単発遠隔転移がある
M1c 肺以外の一臓器または多臓器への多発遠隔転移がある

※日本肺癌学会編「臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月(第8版)」(金原出版株式会社)より作成

非小細胞肺がんの病期(ステージ)

Ⅰ期がんが肺の中にとどまっており、リンパ節への転移はない

充実成分の大きさが3cm以下

充実成分の大きさが3~4cm以下

Ⅱ期がんの原発巣と同じ側の肺内リンパ節に転移している

充実成分の大きさが3cm以下

がんの原発巣と同側の肺内リンパ節転移がある。
あるいは充実成分が5cm~7cm以下、
腫瘍が周りの組織に浸潤している。

Ⅲ期肺を超えて周囲の組織や臓器にまで広がっている
肺内リンパ節、縦隔リンパ節、首のつけ根のリンパ節に転移している

がんの原発巣と同じ側の縦隔リンパ節に転移している。肺の周りの組織(胸壁、横隔膜)に広がり、肺内リンパ節に転移している。

がんの原発巣と反対側の縦隔リンパ節や肺内リンパ節、肺や首のつけ根のリンパ節にまで転移している。肺の周りの心臓や、食道、気管などにも広がっている。

Ⅳ期肺のさまざまな場所に転移している。脳や骨、肝臓などに遠隔転移している。胸水にがん細胞がみられる。

小細胞肺がんでは、上記病期分類のほかに限局型と進展型による分類も用いて治療法を決定します。

小細胞肺がんの病期分類

限局型 ・病巣が片側肺に限局している
・反対側の縦隔および鎖骨上窩(じょうか)リンパ節までに限られている
・悪性胸水および心嚢水がみられない
進展型 ・他臓器転移など「限局型」の範囲を超えてがんが進んでいる

最終更新日:2023年2月10日

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