DOCTOR`S INTERVIEW

身近な相談から専門的な医療まで、
子どものこころとからだを総合的にサポート

小児科・思春期科 准教授

呉 宗憲(ご そうけん)

こんな方に読んでほしい

  • お子さんに体調不良があるが、かかりつけの小児科で原因がよく分からなかった方
  • お子さんが学校に行くのが難しく、お悩みの方
  • お子さんが神経発達症かもしれないとご心配な方

子どもの「学校に行けない」の奥にある、
本当の困りごとを見つけ、理解したい

東京医科大学病院小児科・思春期科(診療科長 山中岳 主任教授)には、呉宗憲 准教授を中心とした「子どもの心とからだ外来(ここ×から外来)」があります。専門医による医学的な診断のもと、身体の病気から子どもの心理、社会環境までを総合的に診て、それぞれの子どもに合うサポートを行っています。

専門医療の提供だけでなく、
地域の身近な相談先としても機能する「小児科・思春期科」

東京医科大学病院は、特定機能病院として専門性が高い病気に対して高度な医療を提供しています。同時に「人間愛に基づいて患者さんとともに歩む医療の実践」という当院の理念のもとに、「地域の身近な相談先」として、予防接種、乳児健診、発達フォロー、保護者支援、心理相談などの機能も携え、その役割を果たしています。

当院の小児科・思春期科には、安心・安全な医療・支援を提供するため、日本小児科学会専門医、子どものこころ専門医機構子どものこころ専門医、小児神経専門医、日本頭痛学会頭痛専門医のほか、各領域の専門医が在籍しています。「神経」「頭痛」「腎臓病」「アレルギー」「消化器・内視鏡」「内分泌」など様々な専門外来があり、その一つとして「子どもの心とからだ外来(ここ×から外来)」があります。

「身体・心理・社会」のつながりを意識して子どもに寄り添う
「こどもの心とからだ外来(ここ×から外来)」

「ここ×から外来」では、私たち専門医が、Bio-Psycho-Social(生物・心理・社会)モデルで対応すべき疾患・病態について診療にあたっています。具体的には、神経発達症(注意欠如多動症、自閉スペクトラム症)や起立性調節障害、体位性頻脈症候群、摂食障害(神経性やせ症、回避・制限性食物摂取症)、慢性連日性頭痛、睡眠障害、不登校などを診ています。子どもは言葉の発達や自己像が未完成なため、抱えている負担が身体に現れやすい特徴があります。さまざまな身体症状を繰り返し訴える子の中に、稀な疾患や重篤な疾患が隠れていることもありますので、まずは科学的に、国際基準に沿った問診・診察のもと、子どもへの侵襲性も踏まえたうえで、必要に応じて血液・画像・生理学的などの検査を実施します。重篤な疾患が隠れていないと、ある程度安心できる状況が確認された際、私たちはそれらを「本当の困りごとのへ入口」として捉え、子ども・ご家族へ敬意を払いつつ、丁寧に一歩、踏み込ませていただきます。

私たちは「子どもに原因を問い詰め、語らせ、代わりに解決してあげる」という姿勢ではなく、小児科医らしく「身体症状」を手がかりとして、いまより少し快適になるために、① 医療として私たちができること(症状に対する医学的説明や生活の工夫・薬物療法、心理面の評価やフィードバック)、② 周囲が出来ること(環境調整や保護者支援、ペアレント・トレーニングによる望ましい関わり方の習得)、③ 子ども自身ができること(葛藤を乗り越えるためのエンパワーメント、自立と自律へ向けたスモールステップでの成長の促し)をともに考える伴走型の支援をしたいと考えています。

当院では医師だけでなく、看護師や心理師・メディカルソーシャルワーカー・栄養士・学校関係者と連携のもと、心理的・社会的な課題を一つ一つ取り払いながら、本人が回復する過程に寄り添う支援を行います。ただ、年齢や病態の重症度によっては、当科だけでは対応できないこともあり、その場合は、当院メンタルヘルス科「子どものこころ診療部門」や近隣の睡眠専門医療機関などとも連携して対応しています。

ここでは主に、当科「ここ×から外来」で診療実績が豊富な3つのケースをご紹介します。

1. 「起立性調節障害」を総合的な目で診断

起立性調節障害(OD)の主な症状は、立ちくらみや起床困難、頭痛などです。一般的に、思春期に自律神経のアンバランスが起きるために生じると考えられています。しかし、ODといわれて、処方された薬を飲んでいたけれどよくならないというお子さんもいます。私たちは身体疾患としてのODと、心理・社会的なODの2つの軸を意識して診療しています。

体位性頻脈症候群(POTS)は本邦においてはODのサブタイプの一つですが、近年、POTSはエーラス・ダンロス症候群やマルファン症候群など、結合組織の病気の方がなりやすいことも国外で指摘されています。姿勢変換に伴う循環動態の異常を、科学的に評価しつつ、その是正のための薬物療法、生活療法、行動療法などを行います。

一方で、症状改善のためには、たとえば「夜はこのくらいの時間に寝た方がいい」と分かっていても、なかなか出来ないということは多々あります。その場合、それが実行できないことを否定するのではなく、背景へ着目したいと考えています。眠れない生活を強いられていないか?ついつい遅くなってしまう時間感覚の乏しさはないか?そもそも本当に早く眠りたい(起きられたい)のか?身体面だけではなく、心理・社会面も含め、子ども自身や周囲の方に、気づきが得られるよう働きかけつつ、見失ってしまった「出口」を一緒に探し、動機づけから行動変容を目指します。このように私たちの科では、身体・心理・社会環境を包括的・全人的に診ています。

2. 「不登校」は、段階に応じてそれぞれの状況をみてサポート

当科の「ここ×から外来」に来られる方は、登校に何らかの問題が生じているケースが多いです。不登校のはじまりは、頭痛や腹痛など一般的な身体症状が現れやすいです。「学校に行きたくない」が言える子は、このような症状に悩まないで済むこともありますが、多くの子どたちは、学校に「行きたい気持ち」と「行きたくない気持ち」の間で、「なんかしんどい」という感覚だけが自覚できているように、私たちには映ります。この時期の子どもは、睡眠覚醒リズムが大きく後退しがちです。保護者の方は子どもを何とか学校に行かせようと強く働きかけ、「今日こそ学校へ行けるか」と期待と不安に揺れ動き、朝の時間は家族にとって、とてもツラいものとなります。このタイミングで、なんとか子どもを小児科へ連れて行ったとしても、一通りの検査をされたのち、異常がないので「メンタルの問題でしょうか」と原因不明のまま終わり、途方に暮れてしまうことも少なくないのではないでしょうか。やがて「学校に行けてない状況」が家族で受け入れられ始めると、身体症状は軽減し、生活リズムも少し改善してきます。この時期は、子どももリビングに出てきて保護者の方と普通の会話はできるようになりますが、学校や将来の話をすると敏感に反応し、場合によっては暴力・暴言を伴うケースもあります。私たちは可能な限り、どのフェーズで受診されても、その先を目指し、時として子どもの代弁者となり、個々の葛藤を乗り越えるための支援と、その子にとって「ちょうどいい場所」に辿り着く過程の伴走をさせていただきたいと考えています。

実際に、保護者の方のご相談で多いのは、お子さんの状況に対してどう関わっていいか分からないという不安です。自分は寛容すぎるのではないか、あるいはつい高圧的に出てしまうなどの悩みを抱えていらっしゃいます。正解なんてないのですが、例えば自転車に乗る練習で補助輪を外した時、右に傾いていれば左に重心をかけるよう声掛けするのと同様に、現状とは異なる働きかけをしてみることなども、一緒に考えさせていただいております。

不登校の経過

第1段階 不登校準備段階 周囲から子どもの葛藤やしんどさがみえにくい。出現する症状があってもごく一般的な症状で気づかれにくい。
第2段階 不登校開始段階 激しい葛藤の顕在化。不安定さが際立つ。朝の登校前の時間は親子にとって互いにきつい。
第3段階 ひきこもり段階 退行(幼児がえり)と顕著な外界回避。徐々に余裕を回復し、葛藤を解決しようとしている段階。学校の話題に触れなければ親子関係も良好になっていく場合もある。
第4段階 社会との再会段階 葛藤を本人なりに解決し、保護者の理解も得られ、エネルギーを蓄えた子どもは退屈を訴え、また外に出ようとする。
再登校が可能になる場合もある。

斉藤万比古「不登校の児童・思春期精神医学」金剛出版.2006
斉藤万比古「不登校対応ガイドブック」中山書店.2007

3. 「神経発達症」の子どもを、医学的に的確な診断をもとに支援

神経発達症には、注意欠如多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)が含まれ、年代によって必要な支援が異なります。症状としては、3歳ごろから傾向が顕著になり、就学前までに診断されるケースが一般的です。情緒的な課題、集団行動への適応状況、知的水準などに応じ、その地域やご家庭において活用可能な療育、薬物療法などを行い、年代ごとに予見される「困りごと」などを示しつつ、進学に際しての助言などを行います。当科では、新生児期から継続してこのような支援を行う「発達フォロー外来」や、小児神経科医による「小児神経外来」もあり、未就学年代から学童期前半までは、これら外来が中心となって担当させていただいております。

また、小学校まではグレー(パステル)ゾーンのままで過ごし、周囲の要求水準の高まりや、対人交流が複雑化してくる思春期に、身体症状として現れ、「本当の困りごと」の背景にそのような特性が関与していると考えられるケースもあります。多動など学校場面で問題行動がある場合は、学校の先生が積極的に受診を促しますが、不注意症状や、対人コミュニケーション障害などは、学校場面で気づかれにくく、支援へつながっていないことが多いように感じます。

これらグレー(パステル)ゾーンの子どもたちは、無理解の中で成長していく中で、「何となくしんどい」感覚が、身体の症状として現れ、抑うつや睡眠覚醒リズム障害などの二次障害も伴うことがあります。そのような子どもが当科を受診した際、我々は小児科医としての身体疾患の鑑別に終始せずに、ガイドラインに準じた診断のもと、自己理解の獲得、環境調整や今後の経過の見立ての提供、ペアレント・トレーニングや療育など、支援プログラムの紹介により、「本当の困りごと」の解決へ向けて支援したいと考えております。

子どもは、取り巻く環境や社会に大きく左右される

コロナ禍では子どもの不登校や摂食障害、自殺の増加が多数報告されています。子ども・若者の自殺増加の原因として、大人の経済的打撃(と自殺増加)との関連も指摘されていますが、過去のリーマン・ショックでは大人の自殺増加に比して、子ども・若者の自殺はそこまで増えてはいませんでした。私はコロナ禍による、子どもたちの外の世界との「つながり」の希薄化と、家庭内の課題の顕在化も一因としてあるのではないかと考えています。

また連日、コロナや震災などのニュースが流れてくると、不安特性の強い子どもは、不安障害の病名がつくレベルまで症状が進展する可能性があります。必要な情報の収集は重要ですが、大人へ向けた報道内容を、子どもたちは適切に処理できていない可能性にも注意を払い、ある程度の安全が確保されている状況下では「テレビをつけっぱなしにしない」ことも重要だと考えています。発熱などでの受診においては、ここまでのお話しは致しませんが、私たちは子どもを診るとき、その子どもを取り巻く環境や社会にも目を向ける必要があると考えています。このように小児科はとても社会性のある診療科であるため、当科では必要に応じて学校などへの働きかけも視野に入れて、必要なサポートを行っています。

子どもの心を「治す」のではなく「理解する」

私は好きなことしか頑張れない、やらなきゃいけないことが出来ない子どもでした。私自身が長男ということもあり、親戚の集まりなどでは小さい子たちの面倒を自然と見てきたためか、「子どものためなら頑張れるかも」と思えたことがきっかけで、小児科医を志し医学部に進学しました。診療では、親しみやすさと分かりやすい説明を心がけています。また、我々が行う医療行為を通し、子どもや保護者にとって、成長の後押しや自信に繋げられたら良いなと考えています。ワクチン接種で緊張している子どもには「そりゃいやだよなぁ〜」という私の心からの共感とともに、「それでもこうしてここに座っているのはすごいよな〜」と、本音として言葉で伝えるようにしています。加えてその子に合いそうな、できる限り痛みを感じにくい工夫をしつつ接種すると、「え?もう終わったの?泣かないでできた〜」などと嬉しそうに自信をつけて帰っていただけることもあります。もちろんそれでも泣いたり、暴れてしまうこともありますが、その子その子にとって、ひとつ成長できたと感じられるよう、「泣いたけどグッと我慢してたの伝わったよ」「暴れたいほど嫌なのに、診察室まで入れたのは凄いことだよね」などと言葉がけを工夫しています。医療としてのワクチン接種は「免疫獲得」が目的ですが、小児科医としてはせっかく子どもと関われるチャンスですので、少しでも成長に役立てればと思っています。

心には「心が折れる」「心を盗まれる」「心が騒ぐ」「心を砕く」など、さまざまな表現があるように、正解がないものです。そのため「治す」のではなく「理解する姿勢」が大切だと考えています。「ここ×から外来」には、こころとからだの両方を診るというだけでなく、診察によって本当の困りごとを見つけ、「ここからスタートする」という想いも込められています。当科を受診することで、自分の現在地を理解し、ここから、また社会に戻っていく、そんな手助けができればと考えています。

本治療に関する問い合わせ

お問い合わせ先 東京医科大学病院 小児科・思春期科外来
TEL 03-3342-6111(病院代表)
受診を希望される方は、小児科・思春期科外来へご連絡ください。
HP https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/shoni/gairai_kokoro.html