DOCTOR`S INTERVIEW

大学病院ならではの総合力を発揮し、
患者さんに適した心臓血管外科治療を提供

心臓血管外科 主任教授

島原 佑介(しまはら ゆうすけ)

こんな方に読んでほしい

  • 安全で質の高い心臓大血管の手術を受けたい方
  • 心臓や大血管の病気があり、治療を考えているが不安な方
  • 心臓血管外科に加えて、その他の診療科も含めた総合力が高い病院で治療を受けたい方

一人ひとりに適した心臓血管外科治療を提供して、
患者さんが新たな人生のスタートにしっかりと立てるように

東京医科大学病院では、高度な技術を要する心臓および血管の手術に取り組んでいます。心臓血管外科(島原佑介 主任教授)では循環器内科をはじめとした他科と連携して、その方に適した治療を選んでいます。手術を受けた患者さんが歩いて再び帰られるようになるためには、手術が予定通り安全に終わることは重要な要素の一つとなりますが、それだけでは不十分です。術前からの綿密な手術計画に加え、合併症を最小限におさえるための質の高い術後管理が必須となります。同じ病気、手術であっても、患者さんごとに治療における問題点が異なります。当科では、患者さんごとに適した医療が実践できるように、術前後の詳細な画像診断解析を行い、他科および他職種と連携し、より安全で安心していただける高度外科技術の提供をできるように尽力しています。

心臓や大血管手術、および難病治療に取り組んでいる

私は2020年より当院に赴任し、2023年4月に主任教授を拝命しました。専門分野は心臓大血管手術で、当院に赴任するまでは、小児心臓手術から心臓大血管、ロボット心臓手術、人工心臓や心臓移植にわたる全般的な心臓大血管手術を行っている国立循環器病研究センターという症例数の多い、いわゆるハイボリュームセンターで約16年間研鑽を積みました。今回、特に当科が得意とする4つの手術を紹介します。

1. 心臓を動かしたまま、新しい血管の道を作る、オフポンプ冠動脈バイパス手術(Off-pump CABG)

オフポンプ冠動脈バイパス手術(Off-pump CABG)は、狭心症や心筋梗塞の病気で心臓の血管である冠動脈の流れが悪くなった部分の先に、別の部位の血管(グラフト)を縫い付けて、新しく血液が流れる道 (バイパス)を作る手術です。

冠動脈バイパス手術(CABG)では、人工心肺装置(ポンプ)を使って循環の補助や心臓を止めて行うオンポンプの治療が主流でした。当科では人工心肺装置を使わずに、心臓を動かしたまま行う低侵襲手術である「オフポンプCABG」を行っています。この治療は人工心肺使用時に比べ、脳梗塞や腎障害、出血傾向の発生率が低く、特に手術がハイリスクの患者さん (高齢、多数の併存疾患)に有効です。オフポンプCABGは1~2ミリの細かい血管を、心臓を動かしたままの状態で縫う手術のため技術的に難易度が高い上、麻酔科や人工心肺技士との綿密なコミュニケーションを中心とした高いチーム力が必要です。

バイパスに使用する血管には、主に胸にある内胸動脈と前腕の橈骨(とうこつ)動脈を使います。橈骨動脈を使う方法は従来の脚の静脈を用いる方法に比べ、長期にわたり詰まりにくいとされています。海外の最近のガイドラインでは、内胸動脈に次ぐ第2のグラフトとして使用することが推奨されていますが、日本での使用頻度はとても低いことが現状です。橈骨動脈採取後は、腕や手のしびれなどの感覚障害が出る可能性があるので利き手ではない腕から採取します。

近年では、カテーテルや薬物治療が進歩し、全国的にCABGの件数は10年前の6〜7割ほどに減少しています。とはいえ、CABGを必要とする患者さんはまだまだ多いです。一方でCABG患者さんは、カテーテルや薬物治療が適応とならない方になりますので、重症冠動脈病変に加えて様々な併存疾患を有する方が多くなりました。この状況に対応するためにもオフポンプCABGの技術とチーム力、質の高い周術期管理が必須となります。

オフポンプCABGは当科で最も習熟した手術の一つであり、緊急症例や重症例も多いのですが安定した治療成績をあげています。通常は胸の中央を切開する胸骨正中切開で行いますが、患者さんの状態によっては、胸骨切開をせずに左胸の肋骨の間を切開する方法も行っています。

2. 傷が小さい低侵襲手術、完全内視鏡下右小開胸心臓手術 (endoscopic MICS)

完全内視鏡下右小開胸心臓手術(endoscopic MICS)は弁膜症や心房細動、心房中隔欠損症、心臓腫瘍に対して行っています。右胸とそけい部に4cmの小切開を行い、その他は0.5〜1.0cmほどの穴を通して手術で使う道具を出し入れしながら心臓手術を行います。この手術では4K 3Dの高解像度の内視鏡で映し出されたモニターを見ながら心臓の弁や心臓壁の修理、置き換え、心房細動を起きにくくするMaze(メイズ)手術や脳梗塞予防のための左心耳閉鎖術などを行います。

この手術は技術的に難しいため、習熟したチームの力が必要です。また、すべての方に適している訳ではなく、例えば肺の状態が悪い方は適応となりません。患者さんの状態によっては、従来の方法である胸の中央を開く胸骨正中切開の方が良い場合も多くあります。当科では術前心臓CTによる詳細な解析を行い、より安全で質の高い完全内視鏡下右小開胸心臓手術を行っています。

3. 難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する、肺動脈内膜摘除術 (PEA)

当科では昨年、肺動脈内膜摘除術 (PEA)を23件経験しました。この手術の主な対象は慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (CTEPH)という未だに原因がよくわかっていない難病となります。全国報告では年間約50件 (2019年では冠動脈バイパスは約12,600件、弁膜症手術は約23,300件)ほどの少ない手術ですが、非常に特殊な手術であり、専門チームの力が必要です。超低体温循環停止法という方法を用いて行います。この方法は全身を18℃まで冷やし、体のすべての血流を停止させた状態で肺動脈の中の硬くなった血栓と内膜を取り出します。体の血流を15分止めて10分流すという作業を繰り返しながら行うため体への負担がかなりかかることや、内膜をきれいにかつ血管損傷なく取り除くには習熟した技術が必要です。そのためこの手術を専門的に行える病院は非常に限られています。

当院では手術だけではなく、近年発展してきているカテーテルによる治療 (BPA)も積極的に行っており、これらと薬物治療を組み合わせた治療により治療成績が向上しています。当院は手術とカテーテル治療がシームレスに行うことができる全国でも数少ない専門施設です。

4. 胸部大動脈瘤に対する開胸人工血管置換術と低侵襲ステントグラフト内挿術

胸部大動脈疾患に対する手術も24時間体制で受け入れています。大動脈の病気の状態にあわせた治療を行っています。胸部大動脈瘤が長い範囲にわたって伸展している場合には、カテーテルによる血管内治療であるステントグラフト内挿術と人工血管置換術を、手術日時をずらして段階的に行うことで、手術のリスクを分散して、合併症を最小限に抑えるようにしています。

循環器内科をはじめとした他科と連携し、一人ひとりの患者さんにしっかりとした手術の戦略を練る

患者さんに手術を乗り越えてもらい、合併症を最小限に抑えて退院してもらうためには術前にしっかりとした戦略を立てる必要があります。まずしっかりと検査を行い、心臓CT検査などの画像解析を詳細に行います。その上で個々の患者さんに適した手術プランニングを立てることが重要です。また、手術が予定通りに終了しても、術後合併症による大きなトラブルが起こる可能性は十分にあります。多くの場合、合併症は術後に起こるので慎重に術後管理をしています。どの患者さんも無事に退院してもらうためには、術前から手術、術後にいたるまでのすべての場面で手を抜くわけにはいきません。当院の心臓胸部大血管開胸手術は昨年約170例ですので、全国屈指のハイボリュームセンター群に比べ件数は少ないですが、その分、一人ひとりの患者さんに対してチームでしっかり診療し、合併症発生の最小化を達成できていると感じています。

心臓手術は薬剤や人工心肺管理、循環管理などのチェック事項が他の手術に比べて桁違いに多く、心臓血管外科、麻酔科、看護師、人工心肺技士の技量とチームワークが重要です。先ほど述べたとおり、合併症は術後に起きることが多く、集中治療部や循環器内科、リハビリテーションセンター、栄養管理科をはじめ、看護師、技士などとの連携は必須です。また、腎臓内科、放射線科、形成外科など他の外科や他職種と密に連携することでよりよい治療が遂行できます。

特に循環器内科とは強力なタッグを組んで取り組んでいます。循環器内科とは一心同体と思っており、循環器内科の先生をリスペクトしています。術前術後は必ず循環器内科が一緒に診てくれているので、常に信頼してもらえるような外科治療を行い、手術などを頼まれた時はすぐに応えるように心がけています。

患者さんの高齢化や併存疾患として糖尿病、肥満、透析などを持つ手術ハイリスク患者さんが増えてきました。また大学病院ですので、特殊な病気を併存している患者さんも多くいらっしゃいます。これらの患者さんに対応するため、現在でも心臓を治す技術や、細かいテクニックを習得する努力をしています。さらに、外科医として手技を高めた上で自分の技量を見極め、計画している手術法が実行可能であるかの冷静な判断力を養うようにしています。

日々トレーニングを重ねる「本物の外科医」を育てたい

私は小学校から大学卒業までサッカーを続け、ボランチという攻守を担うチームの心臓となるポジションを得意としていました。20年以上も前のことなので現在とはかなり教育システムが違うこともありますが、大学時代はプロになるわけではないのに、サッカーばかりして、自分の中で極めようと努力していました (笑)。この経験からトレーニングの大切さを身にしみて感じています。サッカーに限らず、野球でも甲子園に出たい、うまくなりたいという気持ちで子供の時からずっと、朝から晩まで練習し、週末は試合での実戦経験を積んでいくというトレーニングを行っている高校球児はたくさんいます。患者さんの命を預かり、その技量で給料をもらい、社会的責任をもつ外科医が常にトレーニングをするのは当然ですが、雑務が多いことや、家族などのプライベートな時間を確保しなければならないことなどから実際にトレーニング時間を十分にとることはなかなか困難です。そのような中でも、少しずつシステムを構築し、若い外科医が継続的にトレーニングができる環境作りを進めていきたいと思っています。

外科トレーニングには、豚などの心臓を使ったウェットラボ、器具を使うドライラボの練習方法があります。自作のトレーニングキットを作るほか、企業に頼んで3Dプリンターで心臓の模型を作り、実際の手術となるべく同じ状況で手術トレーニングができる方法を作成し、実践しています。私は動いている心臓を治すのは面白そうだと思い、人生をかけて挑戦するやりがいを感じて心臓血管外科を選びました。今でも時間があればトレーニングを積んでいますし、若い外科医の先生にもトレーニングが楽しくなる、くせになる様な教育システムが作成できればと思っています。

研修医時代から今まで、病院にいる時間は極めて長い方だと思います。何かあってもすぐに駆けつけることができますので自分の中では安心感があります。働き方改革には逆行していますが (笑)。修行を積んだハイボリュームセンターでもそうでしたが、現在でも何かあればいつでも連絡してほしいと看護師にも、同僚にも言っています。

若い医師には、とにかくトレーニングをするよう指導しています。縫合の練習や手術のシミュレーションを、そして実際の手術、周術期管理を通して、患者さんをしっかりと診ることができる本物の外科医を育てる医局にしたいです。その上で研究活動を盛り上げていきたいと思っています。

一人ひとりの患者さんを大切に

心臓血管外科では、心臓大血管手術から足の血管の再生治療、循環器内科と協力した治療までバランスよく行っています。また、東京都や周囲の病院と協力し、拠点病院として24時間体制で心臓大血管の救急疾患に対応しています。他科、他職種と連携して、患者さんごとに質の高い手術、術前術後管理を行うことに尽力し、一人ひとりの患者さんを大切に治療する方針です。また、当院は医療安全の文化が発達しており、病院全体の理念である「患者さんとともに歩む良質な医療」を病院全体で共有し、高いレベルで達成しようとしていることも当院で治療を受ける大きな利点だと思います。 治療法などご不明な点や心配事があれば、お気軽にお尋ねください。

本治療に関する問い合わせ

お問い合わせ先 東京医科大学病院 心臓血管外科
TEL 03-3342-6111(病院代表)
受診を希望される方は、心臓血管外科外来へご連絡ください。
HP https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kekkan/index.html

診療実績

心臓・胸部大血管に対する開胸による手術件数

2022年 172件 内CABG(on+off) 52件、PEA 23件
2023年 149件 内CABG(on+off) 48件、PEA 19件
※ 2023年は10月までの件数