胃がんの基礎知識

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胃がんとは?

胃は食道から続いている臓器で、食物を一時的に貯留し殺菌消化する役割を果たしています。大きさは含まれた内容量によって変化しますが、最大内容量は1,200~1,600mlになります。胃には各部分にそれぞれ名称がつけられています。

胃は内側から粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜で構成されており、胃がんは胃の粘膜にできるがんのことです。粘膜から粘膜下層までにとどまっているがんを早期胃がんと呼び、固有筋層より深い層まで浸潤したがんを進行胃がんと呼びます。早期発見をすることにより多くの場合治癒できます。

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原因

胃がんの発生のリスクとして、ピロリ菌が一つの要因です。ピロリ菌に関しては最近では感染率が低下して、胃がんの発生率は減少しています。その他に胃がんのリスクとしては喫煙、ストレス、塩分、アルコール、刺激物などが原因になると考えられています。逆に胃がんを予防するものとして野菜、緑茶、冷蔵庫(冷蔵庫の普及により高塩分などの保存食の必要性が少なくなったため)などが考えられています。

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症状

嘔吐、吐血、下血、食欲低下、体重減少などの症状が出現することがありますが、これらは胃がんに特徴的な症状ではありません。症状がなく健康診断で発見されることもあります。最近では検診として胃のバリウム検査ではなく、胃の内視鏡を行うことも多くなってきており、早期に発見されることも増えてきました。

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患者数

胃がんは世界の中でも日本や韓国で多い病気です。日本国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い傾向にあります。胃がんはかつて日本人のがん死亡率の第1位でしたが近年減少にあり、2021年厚生労働省の部位別がん死亡率では男性では肺がん、大腸がんを下回り第3位、女性で第5位でした。しかし、胃がんの罹患数に関しては、人口高齢化の影響で非常に増えており、2019年に診断された人は男性で約9万人、女性で約4万人となっています。つまり胃がんになる患者さんは増加していますが、完治される人が多いため死亡数はあまり変わっていないのが現状です。この変化は胃がんの早期期発見・早期治療の進歩が著しいためと考えられます。

胃がんの種類

「肉眼型分類」では6型に分類されます。さらに早期胃がんの0型は5種類に分類されます。1型~5型は進行がんです。

早期胃がん(0型)の肉眼型分類
(がんが粘膜下層までにとどまる)

進行胃がんの肉眼型分類
(Borrmann分類)

胃がんの検査と診断

主な検査はX線造影検査(バリウム検査)と内視鏡検査とCT検査、血液検査です。
すべて検査当日は食事をしない状態で検査をさせていただきます。

1.バリウム検査は胃を外から観察し、がんの位置や胃の変形を確認します。

正常なバリウム検査
早期胃がんのバリウム検査

2.内視鏡検査は直接胃の内部が観察できます。内視鏡検査でないと診断できないような早期がんもあります。病変の拡がりを確認したり、病変の一部を採取して病理検査へ提出し、確定診断を行います。

正常胃内視鏡検査
早期胃がん内視鏡検査

3.腹部超音波検査や胸部・腹部CT検査は、胃がんの周囲臓器への浸潤程度やリンパ節や他臓器への転移の有無などを調べます。CT検査では造影剤を使用します。しかし、喘息などの既往や腎臓の機能低下がある方は造影剤を使用できない場合もあります。

4.腫瘍マーカーは血液検査で測定します。腫瘍マーカーとはそれぞれのがんに比較的特異的に変動します。胃がんの場合は主にCEA、CA19-9、CA125の3種類を測定しています。

5.その他、MRI検査やPET検査で他臓器の転移の有無を確認することがあります。

胃がんの治療を決める因子

胃がんの治療をするにあたり、がんの進行度(病期、ステージ)を評価します。その進行度に合わせて治療方針を決定します。しかし、患者さんの年齢や体力なども考慮し、治療を決定します。
 

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組織型

一般型と特殊型に分類されます。一般型は分化型、未分化型に分類され、さらに細分化されます。組織型によってがんの拡がりに特徴があります。早期分化型癌では内視鏡的な治療の適応になる場合があります。

一般型 分化型癌 乳頭腺癌、管状腺癌
未分化癌 低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌
特殊型 カルチノイド腫瘍、内分泌細胞癌、腺扁平上皮癌、扁平上皮癌など
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胃がんの病期

胃がんの治療を決定するために、まず進行度(病期、ステージ)の評価をします。病期はT因子(がんの深さ)、N因子(リンパ節転移の個数)、M因子(遠隔転移)の3項目で評価します。それらの組み合わせで病期を分類します。

① T因子

T1 癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまる
T2 癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
T3 癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
T4 癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
T4a 癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔に露出しているもの(SE)
T4b 癌の浸潤が直接他臓器まで及ぶもの(SI)

※早期胃がんはT1のことを意味します。

② N因子

N0 領域リンパ節に転移を認めない
N1 領域リンパ節に1~2個の転移を認める
N2 領域リンパ節に3~6個転移を認める
N3 領域リンパ節に7個以上転移を認める
N3a 7~15個の転移を認める
N3b 16個以上の転移を認める

③ M因子

M0 遠隔転移がない
M1 遠隔転移がある
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胃がんの病期分類

N0 N1 N2 N3a N3b T/Nに
かかわらず
M1
T1a (M),
T1b (SM)
IA IB ⅡA ⅡB ⅢB IV
T2(MP) IB ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB
T3 (SS) ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB ⅢC
T4a (SE) ⅡB ⅢA ⅢA ⅢB ⅢC
T4 (SI) ⅢA ⅢB ⅢB ⅢC ⅢC
T/Nに
かかわらず
M1

病期ⅠAが内視鏡治療の可能性があります。
病期ⅡもしくはⅢは術後補助療法の適応になります。
後述の胃がんの治療を参照してください。

胃がんの生存率

胃がんの生存率は5年生存率で表わします。他のがんと同様ですが、全身状態等によって条件は変わります。おおよその目安です。
5年生存率とは、診断から5年経過後に生存している患者さんの比率です。
・ステージⅠ期:約90%
・ステージⅡ期:約70%
・ステージⅢA期:約50%
・ステージⅢB~ⅢC期:約30%
・ステージⅣ期:約10%

最終更新日:2023年2月10日

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