
自覚できる初期症状はありますか?
早期の前立腺がんの場合、自覚できる症状はほとんどありません。健康診断や人間ドックなどでのPSA測定(血液検査)によるスクリーニング検査が早期発見の鍵です。また進行した前立腺がんの場合、骨などに転移を起こしていることが多いため、腰痛などの骨の痛みで発見されることもあります。

男性ホルモンが多いとかかりやすいですか?
前立腺がんは、男性ホルモンが減少してくる50~60歳くらいから増加していることから、がんの発生は、単純な男性ホルモンの量の多さではなく、ホルモンバランスの変化によると考えられます。前立腺がんの罹患を心配される場合は、一度採血検査でPSA値を測定してスクリーニング検査をしてみるのが良いかと思います。

遺伝はしますか?
前立腺がんの家族歴がある場合、前立腺がんにかかるリスクは通常の2.4~5.6倍に上がると報告されています。また前立腺がんに罹患するリスクの高い遺伝子や遺伝子変異も複数報告されています。例えば、2012年にJohns Hopkins大学の研究者らによって報告されたHOXB13G84変異という遺伝子変異は、前立腺がんの罹患リスクが20.1倍になると報告されています。

前立腺がんと診断されましたが、手術しなかった場合どうなりますか?
前立腺がんは臨床病期(画像または身体所見からどれくらい癌が広がっているか)、グリソンスコアと呼ばれる癌の悪性度やPSAの値などから治療方針を検討していきます。手術のほかにも放射線療法や薬物療法(内分泌治療、化学療法)などの治療の選択肢があります。さらにがんの悪性度やPSAの値が低く、臨床病理学的に進行のリスクが低いとされる前立腺がんに関しては、PSAの値を外来で時々計測しながらの経過観察といった方法も選択肢としてあがります。

手術する場合、入院期間はどれくらいですか?
入院期間は約10~14日間となっています。しかし個人差もあり、術後経過次第では入院期間が延長する場合もあります。

手術後、後遺症と考えられるものは何がありますか?
術後、患者さんの生活の質に最も関係してくる後遺症は、『尿失禁』と『性機能障害』です。
『尿失禁』とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことです。正常な排尿機能は、膀胱が充満するまでは尿意を感じることなく尿をためること(畜尿機能)ができ、たまった尿を意識的に体外に排出すること(排尿機能)が出来ますが、前立腺がんの術後はこの排尿機能のコントロールができなくなり、尿失禁をきたします。ただし、尿失禁は徐々に改善していき、当院での経過観察では個人差はありますが術後3カ月で70~80%、6カ月で90%以上の人が尿漏れはほとんどなくなります。
『性機能障害』について、前立腺を摘除する場合、前立腺の左右に分布する勃起に関与する神経ごと摘除します。そのため術後の性機能障害が起こりますが、これらの神経を温存することも可能です。
しかし、生検の際にがんが検出された側やMRIなどで大きながんの存在が疑われる場合は温存しないことが多いです。なぜならこれらの神経は前立腺の左右にぴったりくっついており、温存する際にがんを取り残してしまい、再発の原因になってしまう可能性があるからです。よって、神経を温存するかどうか、左右のどちらかまたは両側を温存するかどうかは術前に患者さんと相談して検討するようにしています。

手術後の尿漏れが心配です。どのようにケアしたらよいでしょうか?
尿失禁に対する最も効果的な方法は骨盤底筋体操です。骨盤底筋は骨盤の底にある筋肉で膀胱や直腸などが下がらないように支えている筋肉群です。このトレーニングは術後、病棟で看護師が指導しますので根気よく続けていただくことが効果的です。

切除した場合、再発の好発部位はありますか?
退院後は約3カ月ごとに来院していただき、PSA値の測定を行います。術後、がんが完全に摘除されている場合は、PSA値は測定感度以下まで低下しますが、術後にPSA値が再上昇することがあります。通常、一度下がったPSA値が0.2以上まで再上昇した場合は再発を疑います。その際に、改めてCT検査や骨シンチグラフィーなどの検査を行いますが、特に再発した病巣がわかることは少ないです。しかし、PSA値が上昇した際に各種画像検査を行った結果、リンパ節転移や骨転移が出現していることもあります。

手術後、リハビリにはどれくらいの時間がかかりますか?
退院後の生活は、手術前と比べ何も変わりません。しかし、2週間の入院生活で体力が低下していると思われますので、退院後は数日間自宅療養されることをおすすめします。また、退院後すぐに職場復帰しても問題はありませんので、ご自身で体調管理に留意していただければと思います。

退院後、何か気を付けるようなことがありますか?
- 手術後約1カ月は、会陰部など手術した部位を直接刺激するバイクや自転車の運転などを避けましょう。
- 手術後約3カ月は、重い荷物を持つなど腹圧がかかるような動作は避けましょう。ロボット手術による傷は非常に小さいですが、創部(手術による傷口)は一時的にお腹を支える筋肉が弱い部分があり、腹圧がかかることにより、脱腸を起こすことがあります。
- ロボット手術に限らず、腹部手術の術後は腸の動きが悪くなり便秘傾向になります。さらに重症化すると腸閉塞などの合併症も報告されています。術後は便秘に気を付け、必要なら主治医に相談して、緩下剤などの使用を検討する場合もあります。
- 手術後、尿道や膀胱と尿道の吻合部(つなぎ目)が狭窄を起こすことがあります。その場合、急に尿の勢いが弱くなるなどの症状がありますので、その際は主治医に相談しましょう。
- 尿漏れが気になり、外出などを控えてしまう患者さんがいらっしゃいます。高齢の方は特にあまり動かないと日常生活動作(ADL)が低下してしまうこともあります。散歩や、運動をすることにより、全身の筋肉が強化され、骨盤底筋も鍛えられるため排尿のリハビリにもつながります。

前立腺がんの予防に良い食事や運動はどんなものがありますか?
ライフスタイルを改善することで前立腺がんの発症を予防できたという明確な科学的根拠はありませんが、生活習慣の改善が前立腺がんの予防に有効である可能性はあると言われています。食生活としては、高脂肪食や魚を摂らない食生活などが前立腺がんの発症リスクが高くなると報告されています。また近年は、喫煙との因果関係も報告されており、ヘビースモーカーは前立腺がんによる死亡のリスクが高くなると示唆されています。

パートナーや友人が前立腺がんになりました。周りが気を付けた方が良いことはありますか?
前立腺がんは病理学的な悪性度やPSA値にもよりますが、一般的には進行が遅く、これまで述べたように治療にも色々な選択肢がありますので、きちんと病気と向き合って治療すれば根治する確率が高い病気です。しかし、患者さんは癌の宣告をされて精神的に落ち込んでしまうことが多く、治療について考える冷静な判断力がなくなってしまうことも珍しくありません。そこで周りの人が本人を精神的にサポートすることによって、病気というものの受容、治療への意欲の手助けになることと思います。
最終更新日:2022年4月5日