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基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生肺炎桿菌の当院における検出事例について

2012.12.14

 このたび、東京医科大学病院において*基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生肺炎桿菌の検出例が認められましたので、以下にご報告いたします。
 *基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生肺炎桿菌の解説は下記をご参照ください。

 本年6月に最初のESBL産生肺炎桿菌の検出例を認め、以後、4つの病棟において、約半年間に菌分離例が24名(内訳:保菌者18名、感染6名) 確認されました。
 6名の方は感染症を発症され、ESBL産生肺炎桿菌に有効な抗菌薬を用いた治療が行われております。6名のうち3名の患者さんが亡くなられましたが、いずれもESBL産生肺炎桿菌による感染症ではなく原疾患の悪化が最終的な死亡原因であった可能性が高いと考えられます。なお、今回分離された耐性菌については、すべてが同じ由来かどうかの詳細な解析を現在進めております。

 お亡くなりになられた患者さんには心よりご冥福をお祈り申し上げます。また、多くの患者さんに今回の事例に関連してご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

 当院は、これらの事実を重く受け止め、院内感染事例の詳細な分析を実施するとともに、現在、感染拡大の防止に努めております。この度の発生事例に対し、東京都福祉保健局、新宿区保健所、私立医科大学病院感染対策協議会にはご支援をいただいております。今後は感染制御部を中心に、教職員一同、再発防止に向けて、より一層の感染対策の強化とその徹底をはかる所存です。

 現在、入院については1つの病棟を除いて特に制限は行っておりません。外来も通常の診療体制で行っております。また、当院を受診されている方で、ご自身の診療に関してご相談がある方は主治医にご相談ください。お電話でのご質問は総務課(内線 4020)へ、報道関係者の方は企画広報室で対応いたします。
 当院では引き続き感染対策の向上に努力してまいりますので、皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

東京医科大学病院
病院長 坪井良治

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌に関する解説 

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(Extended Spectrum β-Lactamase)は菌が産生する酵素の名前であり、菌名ではありません。この酵素はその頭文字をとって一般的にESBL(イーエスビーエル)と呼ばれており、抗菌薬を分解して耐性の原因となります。

 ESBLはペニシリンから第三、第四世代セファロスポリンまで広く分解するため、これらの抗菌薬は無効となります。ただしカルバペネム系などの抗菌薬は有効であり、治療にはこれらの抗菌薬が用いられます。
 ESBLを産生する菌の多くは大腸菌や肺炎桿菌などであり、現在、国内で分離される大腸菌の10~20%、肺炎桿菌の数%程度がESBLを産生しており、国内外で分離頻度の増加が指摘されています。

 ESBL産生菌はこれまで入院されたことがなく、抗菌薬による治療を受けたことがないような一般の方々からもほぼ同じような頻度で分離されています。すなわちこの菌は一般の健康な人の中にも保菌している例がまれではありません。

 大腸菌や肺炎桿菌は主に腸の中に常在菌として存在していますので、その状態では病気を起こすことはありません。

 入院中の患者さんにおいては、感染に対する抵抗力が低下している場合が多いため、大腸菌や肺炎桿菌などでも重症の感染症を起こすことがあります。その際、感染を起こしていた菌がESBLを産生していると、使用できる抗菌薬が制限されるため、ときに治療が難しくなります。ただしESBLを産生しても、病原性が強くなるわけではありませんので、そのために感染が重症化するわけではありません。

 以上のような背景により、一般の方々においては、ESBL産生菌を保菌していたとしても健康上の問題は生じませんし、何も症状は認められません。一方、入院患者さんのように感染に対する抵抗性が低下しておられる方の場合は、この菌を保菌することで感染を起こした場合に問題が生じるため、病院内では患者間の伝播が起こらないように対処する必要があります。

 なお、ESBL産生菌だけでなく、その他の耐性菌も保菌しているだけでは発熱などの感染症の症状は認めないため、治療の対象とはなりません。また耐性菌を持っているかどうかは、培養等の検査を行わなければ確認できないため、入院されている患者さんであっても誰が保菌しているかどうかが全て把握されているわけではありません。

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